
ある子が、車椅子からなかなか降りようとしなかった。
「降りようね」「降りなさい」
こちらは降りてもらいたい。安全面や、その後の活動を考えれば、当然の声かけである。しかし、何度伝えても動かない。こちらが降ろそうとすれば、ますます拒む。
そんなとき、先輩の先生は違った。
「○さん、車椅子で遊ぼうか。先生が押してあげる!」
降りるように促すのではなく、その子が今楽しんでいる世界に一緒に入っていったのだ。
車椅子を押してもらい、楽しそうに過ごす○さん。自分の思いを受け止めてもらい、安心感も生まれたのだろう。やがて車椅子に満足したのか、今度は自分から降りることができた。
その姿を見て、私は「北風と太陽」を思い出した。
そして、もう一つ、先輩の対応から学んだことがある。それは、子どもの行動をベクトル(方向)で捉えるという考え方だ。
教師には目指す方向がある。しかし、子どもは反対の方向を向いていることがある。そんなとき、正論を並べて無理に方向を合わせようとしても、うまくいかない。
だったら、まず教師が子どものベクトルに少し合わせてみる。同じ方向を向き、気持ちを受け止める。そして、少しずつ目指す方向へとベクトルを変えていく。
「困った子は、困っている子」。
行動だけを見れば、自分勝手に思えることもある。しかし、その背景には、その子なりの思いや理由があるのかもしれない。
初任者の先生たちに伝えたい。
「Aをさせたいなら、Bと言え。」
Aという行動を引き出したいなら、Aを直接求めるだけでなく、子どもが動き出せるBという関わり方を考えてみる。
それは甘やかすことでも、指導を諦めることでもない。目指すところは変えず、そこに向かう道筋を変えるのだ。
教師の仕事は、子どもを思いどおりに動かすことではない。子どもが自分から動き出したくなるような関わりを考えることだ。
昨日とは違う、ほんの少しの変化。その小さな変化を喜び、ゆっくりとした成長を楽しめる教師でありたい。

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