指導者の一言が、選手の可能性を広げることも、狭めることもある。
「もっと考えてプレーしよう!」
「なんで、そこでパスを出したんだ!」
「何度言ったら分かるんだ!」
指導者なら、一度は口にしたことがある言葉かもしれません。
選手に成長してほしい。
もっと上手になってほしい。
試合に勝たせてあげたい。
そんな思いがあるからこそ、つい言葉に力が入ることもあります。
しかし、その声掛けは、本当に選手の成長につながっているのでしょうか。
今回は、指導者の「声掛け」について、二つの言葉で考えてみたいと思います。
選手の可能性を育てる「肥えかけ」。
選手を萎縮させてしまう「怖ー賭け」。
1 声掛けが、選手の可能性を「肥えかけ」させる
「どうしたら、うまくいくと思う?」
「今のプレー、どう感じた?」
「次は、どんな方法を試してみたい?」
こうした問い掛けは、選手自身が考えるきっかけになります。
指導者がすぐに答えを伝えるのではなく、選手の考えを引き出す。
選手が自分なりの答えを出したら、まずは受け止める。そして、必要に応じて助言し、次の挑戦につなげる。
もちろん、問い掛ければそれだけでよいわけではありません。選手の発達段階や経験に応じて、具体的な方法を示したり、技術を教えたりすることも必要です。
大切なのは、教えることと、考えさせることを対立させないこと。
指導者の知識や経験を生かしながら、選手自身が理解し、判断し、行動できるように支えていくことです。
声掛けによって、選手の考える力が育つ。
挑戦する意欲が高まる。
自分で判断する場面が増えていく。
そんな関わり方が、選手の可能性を広げる「肥えかけ」なのだと思います。
2 声掛けが、選手にとっての「怖ー賭け」になる
一方で、こんな場面はないでしょうか。
選手が自分で判断してパスを出した。
しかし、相手に奪われてしまった。
その瞬間、ベンチから怒鳴り声が飛ぶ。
「なんで、そこに出すんだ!」
すると、次の場面で選手はパスを出すことをためらうようになる。
自分で判断して失敗するくらいなら、指導者の指示を待った方がよい。
自分の考えでプレーするより、怒られない選択をした方がよい。
そんな気持ちが生まれてしまうかもしれません。
ここで考えたいのが、「怖ー賭け」という言葉です。
サッカーでは、選手はプレーのたびに選択をしています。
パスを出すのか、ドリブルで仕掛けるのか、シュートを打つのか。
どの選択にも、成功する可能性があれば、失敗する可能性もあります。
つまり、選手はプレーの結果というリスクを引き受けながら挑戦しているのです。
ところが、指導者の一方的な声掛けや怒鳴り声によって、失敗を責められることへの恐怖が強くなると、選手はプレーの結果だけでなく、指導者がどんな反応をするかまで気にしなければならなくなります。
自分で判断して失敗したら、怒られるかもしれない。
思い切って挑戦したら、否定されるかもしれない。
そうなると、選手にとってのリスクは、プレーの結果だけではなくなります。
指導者の顔色をうかがいながらプレーすること。それこそが、選手にとっての「怖ー賭け」ではないでしょうか。
本来、選手が引き受けるべきリスクは、プレーの結果であってほしい。
指導者の機嫌や反応にまで、選手のエネルギーを使わせたくありません。
3 失敗したときこそ、指導者の出番
では、選手が失敗したとき、指導者はどう関わればよいのでしょうか。
例えば、ゴールキックから味方につなごうとして、相手にボールを奪われてしまったとします。
そこで、すぐに「だから、蹴っておけと言っただろ!」と声を掛けるのか。
それとも、
「どうして奪われたんだろう?」
「次は、どこを見たらよさそう?」
「ほかに方法はあるかな?」
と問い掛けるのか。
もちろん、状況によっては、まず具体的な方法を教える必要もあるでしょう。安全面や基本技術に関わることなら、指導者が明確に伝えることも大切です。
しかし、選手が考え、判断できる場面まで、すべて指導者が答えを決めてしまったらどうなるでしょうか。
選手は、次の指示を待つようになるかもしれません。
一方、失敗を振り返り、自分たちで改善する経験を積み重ねれば、同じような場面に遭遇したとき、自分たちで解決策を探せるようになる可能性があります。
一度の失敗を、その場限りの失敗で終わらせるのか。
それとも、次の判断につながる学びに変えるのか。
その違いを生み出すのも、指導者の関わり方です。
失敗をなくすことだけを目指すのではなく、失敗から学べる選手を育てる。
そこに、指導者の大切な役割があると思います。
4 ボトムアップは、ただ任せることではない
選手自身が考え、判断し、行動する。
うまくいかなければ、振り返り、改善する。
こうした経験を積み重ねていくことは、ボトムアップの考え方にもつながります。
ただし、ボトムアップは、選手にすべてを任せて指導者が何もしないことではありません。
選手の発達段階に応じて必要な知識や技術を教える。
考えるための問いを投げ掛ける。
話し合える環境をつくる。
必要な場面では、具体的な助言をする。
そして、選手が自分たちで考え、判断できる範囲を少しずつ広げていく。
同じプレーを目指していても、指導者が一方的に指示する場合と、選手が理由を理解し、納得して選択する場合では、その経験の意味が違います。
大切なのは、何をさせるかだけではありません。
なぜそれをするのか。どう考えて、そのプレーを選んだのか。
そこまで大切にすることで、選手は目の前のプレーだけでなく、次の状況でも生かせる判断力を身に付けていくのではないでしょうか。
5 指導者の声掛けも、アップデートする
指導者も、一人の学び手です。
これまで自分が受けてきた指導。
自分が選手として経験してきたこと。
指導者になってから積み重ねてきた経験。
それらは、決して無駄ではありません。
しかし、目の前にいる子どもたちは、自分とは違う時代を生きています。
自分が経験したことをそのまま伝えるだけでなく、目の前の子どもたちに何を授けられるのか。何を考えさせ、どんな力を身に付けさせられるのか。
指導者自身も、学び続ける必要があります。
技術を見せることができる。
プレーの正解を知っている。
それも大切な力です。
一方で、自分ができることと、子どもができるようになることは、必ずしも同じではありません。
子どもが理解できるように伝える。
自分で判断できるように問い掛ける。
実際のプレーで使えるようになるまで支える。
そのための知識や技能を磨いていくことも、指導者の大切な仕事です。
そして、声掛けについても同じです。
自分の言葉が選手にどう届いているのか。
その言葉によって、選手は次の一歩を踏み出せているのか。
それとも、失敗を恐れて立ち止まっているのか。
ときには、自分自身の関わり方を振り返ることも必要です。
おわりに
指導者の「声掛け」が、選手の可能性を育てる「肥えかけ」になるのか。
それとも、選手を萎縮させてしまう「怖ー賭け」になるのか。
その違いは、声の大きさだけで決まるものではありません。
厳しく伝える必要がある場面もあります。安全や仲間への配慮について、明確に指導しなければならないこともあります。
大切なのは、選手を恐怖で動かすのではなく、選手が理解し、納得し、自分で考えて行動できるように関わることです。
選手が挑戦するとき、リスクを背負うのはプレーの結果であってほしい。
指導者の顔色をうかがうことではない。
失敗しても、もう一度挑戦できる。
自分の考えを伝えられる。
仲間と話し合い、次の方法を考えられる。
そんな環境の中でこそ、選手の主体性や判断力は育っていくのだと思います。
今日の自分の声掛けは、選手の可能性を広げただろうか。
それとも、知らず知らずのうちに、挑戦することを怖がらせていなかっただろうか。
指導者自身も問い続けたいと思います。
選手の可能性を育てる「肥えかけ」を。
そして、選手が安心して挑戦できる環境を。
子どもたちの成長とともに、指導者自身も成長していきたいものです。

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