デフォルトシフト理論⑥デフォルトを変えたら、本当に人の行動は変わるのか?

環境を変えることの可能性と、その検証

これまでの記事では、人の意識や努力に変化を求めるだけでなく、行動が生まれる環境や仕組みそのものを見直す「デフォルトシフト理論」について考えてきました。

また、環境や仕組みが変わることで、行動に必要な負担が減ったり、新しい機会が生まれたり、役割や期待される行動が変わったりする可能性についても整理しました。

では、実際にデフォルトを変えたら、人の行動は本当に変わるのでしょうか。

ここは、デフォルトシフト理論を考えるうえで、避けて通ることのできない問いです。

私は、環境を変えることには、人の行動を変える可能性があると考えています。しかし、それは環境を変えれば必ず人が変わるという意味ではありません。

環境を変えたという事実と、行動が変わったという結果は、分けて考える必要があります。

例えば、教室の座席を前向きからグループ型に変更したとします。それだけで、子どもたちが積極的に話し合うようになるとは限りません。座席を変えても、話し合う必要のある課題がなければ、子どもたちは以前と同じように過ごすかもしれません。安心して意見を言える関係ができていなければ、発言をためらう子どももいるでしょう。

つまり、環境の変更は、行動変化のきっかけにはなっても、それだけで結果を保証するものではないのです。

では、デフォルトを変える際には、何を大切にすればよいのでしょうか。

1.変える前に、どのような行動を生み出したいのかを明確にする

最初に必要なのは、何のためにデフォルトを変えるのかを明確にすることです。

例えば、「主体的な子どもを育てたい」という目標だけでは、何を変えればよいのか、変化が生まれたのかを判断することが難しくなります。

そこで、もう一歩具体的に考えます。

自分から質問する機会を増やしたいのか。友達の考えを聞き、自分の考えと比較できるようにしたいのか。困ったときに周囲に助けを求められるようにしたいのか。

このように、望ましい行動を具体的に捉えることで、環境や仕組みのどこを見直すべきかが見えてきます。

デフォルトシフトでは、「人を変えたい」という漠然とした願いを、観察できる行動の目標に置き換えることが重要です。

2.環境のどこを変えるのかを明確にする

次に、行動を生み出す前提となっているものを見直します。

座席配置なのか。授業の進め方なのか。役割分担なのか。情報共有の方法なのか。評価の仕組みなのか。

重要なのは、見た目だけを変えることではありません。

例えば、机をグループ型に並べても、授業の進め方が一方向の説明だけであれば、子どもたちの関わり方は大きく変わらない可能性があります。

環境の形を変えるだけでなく、そこでどのような行動が生まれることを期待しているのかまで考える必要があります。

3.変えた後の行動を観察する

デフォルトを変更したら、実際にどのような行動が生まれたのかを観察します。

例えば、グループ型の教室に変更したのであれば、次のような点を確認できます。

  • 子ども同士の会話は増えたのか。
  • 自分の考えを伝える機会は増えたのか。
  • 友達の意見を聞いて、自分の考えを修正する姿は見られたのか。
  • 特定の子どもだけでなく、さまざまな子どもが参加できているのか。
  • 話し合いに参加しにくくなった子どもはいないか。

ここで大切なのは、期待した変化だけを見るのではないということです。

発言の回数が増えたとしても、一部の子どもだけが話しているのであれば、全員の参加が促進されたとは言えません。会話が増えても、学習内容と関係のない雑談ばかりであれば、当初の目的が達成されたとは限りません。

行動の量だけでなく、質や参加の偏りにも目を向ける必要があります。

4.変化が見られなければ、環境や仕組みを見直す

環境を変えても、期待した行動が生まれないことがあります。

そのとき、「子どもたちに意欲がないから」「職員の意識が低いから」と、すぐに個人の問題にしてしまうのは避けたいところです。

そもそも、環境の変更は適切だったのでしょうか。行動するための知識や技能は十分だったでしょうか。役割は明確だったでしょうか。心理的に安心して参加できる状態だったでしょうか。

こうした点を確認し、必要に応じて仕組みを修正します。

例えば、グループ活動で発言が少ないのであれば、単に話し合う時間を増やすのではなく、一人で考える時間を確保したり、ペアで話してからグループに移行したり、役割を明確にしたりする方法が考えられます。

デフォルトシフトは、一度変更して終わりではありません。実際の行動を確かめながら、よりよい状態に調整していくことが必要です。

5.一時的な変化と、継続的な変化を区別する

もう一つ、重要な視点があります。

それは、一時的に行動が変わったことと、その行動が継続するようになったことを区別するという点です。

新しい環境にした直後は、珍しさや新鮮さによって行動が変わることがあります。しかし、時間が経つにつれて元の状態に戻ってしまうこともあります。

本当に目指したいのは、一時的な行動の変化だけではありません。

日常の中でその行動を繰り返し経験し、必要な技能や自信を身につけ、やがて特別な働きかけがなくても行動できるようになることです。

ただし、行動が継続したからといって、必ずしも本人の意識や価値観まで変化したとは限りません。行動、習慣、意識、集団の規範は、それぞれ分けて捉える必要があります。

デフォルトシフトは、変えて終わりではない

ここまでの内容を整理すると、デフォルトシフトには、次のような流れが考えられます。

現状のデフォルトを把握する。

生み出したい行動を具体化する。

行動が生まれやすくなるように環境や仕組みを再設計する。

実際に生まれた行動を観察する。

結果を踏まえて、環境や仕組みを修正する。

そして、必要な支援を行いながら、望ましい行動が日常の中で繰り返される状態を目指します。

この過程で大切なのは、最初に考えた方法に固執しないことです。

環境を変えた結果、期待した行動が生まれなかったのであれば、それも重要な情報です。むしろ、その結果から何が不足していたのかを考え、次の改善につなげることができます。

デフォルトシフト理論は、環境を変えればすべて解決するという万能の方法論ではありません。人と環境の関係を見直し、行動が生まれる条件を整え、その結果を確かめながら改善していく考え方です。

人を変えることを諦めるのではなく、変化の可能性を広げる

ここで、改めて伝えたいことがあります。

デフォルトシフト理論は、本人の意識や努力を軽視するものではありません。指導や支援、対話、学びの機会も大切です。

ただ、それらを本人だけに背負わせないということです。

本人が努力しなければ行動できない環境なのか。それとも、本人の意思や努力を支え、望ましい行動が生まれやすくなる環境なのか。

その違いは小さくありません。

人の行動には、本人の意思だけでは変えにくい条件も関係しています。だからこそ、個人への働きかけと、環境や仕組みの再設計を組み合わせて考える必要があります。

デフォルトを変えることは、人を思いどおりに動かすことではありません。人が新しい行動を経験し、変化していく可能性を広げることです。

そして、その可能性が本当に広がったのかを、実際の行動から確かめていく。

変えることを目的にするのではなく、変化が生まれたかどうかを確かめること。

そこまで含めて、デフォルトシフト理論だと考えています。

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