前例がない時間割は、なぜ拒絶されるのか?「教員の準備時間」と「学びの質」を同時に救った小さな工夫

学校でも職場でも、新しいやり方を提案したときに、すっと冷たい風が吹く瞬間があります。

「それ、前例がないですよね」 「やったことがないから、ちょっと分からないな」

今まで通りのやり方を続けていれば、少なくとも誰かから文句を言われることはありません。でも、本当にそれが「子どもたちのため」「働く自分たちのため」になっているのだろうか――そんな違和感を覚えることはないでしょうか。

中学校の教務主任をしていた頃、こんな出来事がありました。

中学3年生の社会科は週4時間。それを5つのクラスで展開するため、自分ともう一人の教員(Aさん)の2人で担当することになりました。

最初に上がってきた案は、ごく一般的なものでした。教務主任で他の仕事も多い自分が1つのクラスを週4時間担当し、残り4つのクラス(週16時間分)をAさんが担当する、という分け方です。

一見すると、主任の負担に配慮した合理的な分担に見えます。しかし、私の中にはどうしても引っかかるものがありました。

「私が担当する1クラスと、Aさんが担当する4クラスで、授業の雰囲気や指導に差が出てしまわないだろうか」 「『あのクラスだけ主任が教えていていいな』といった、不必要な格差を感じさせてしまわないだろうか」

子どもたち全員に、平等で質の高い学びを届けたい。そう考えたとき、頭に浮かんだのは「1人で1つのクラスを完結させる」という固定観念を捨てることでした。

そこで提案したのが、授業の「切り分け」です。

週4時間のうち、中心となる3時間はAさんに全5クラス(週15時間分)を担当してもらう。そして残りの1時間(公民の分野など)を、私が全5クラス(週5時間分)担当する。

私自身の持ちコマは週4時間から週5時間へと1時間増えます。一見すると負担が増えたようにも見えますが、実は全く逆でした。

授業準備が「1パターン」で済むのです。

Aさんも3時間分の1パターン、私も1時間分の1パターンを用意すれば、全5クラスの授業が成り立ちます。教材研究やプリント作成の時間が大幅に削減され、お互いに大きなゆとりが生まれました。

そして何より、全クラスの子どもたちが同じ2人の教員から学びを受けるため、クラスごとの指導の偏りがなくなりました。

教員の準備時間が激減し、子どもたちへの教育力も上がる。お互いにとってメリットしかないやり方だったはずです。

それなのに、この方法を提案したとき、周囲からは「何をそんな変なやり方を試しているんだ」というような戸惑いの視線を向けられました。

なぜ、みんなが楽になり、子どもたちも幸せになる方法が、最初はマイナスに捉えられてしまうのでしょうか。

私たちは無意識のうちに、「経験したことがないもの」に対して「不安」や「リスク」を先に感じてしまう生き物だからかもしれません。これまで誰もやっていなかった工夫は、どんなに合理的であっても、最初は「異物」に見えてしまうのです。

教育の現場ではよく「カリキュラム・マネジメント」という言葉が使われます。難しく聞こえますが、本質はとてもシンプルです。決められた時間割をただ消化するのではなく、「子どもにとっても、教える側にとってもプラスになる形に組み替えていくこと」。

カリキュラムは、変えていい。 そして、環境を変えることは、手抜きではなく「質を高めるための攻めの工夫」です。

一人で全責任を抱え込んで授業を作るより、役割を分けて得意な部分や時間を出 perturbations し合う。それはまさに、大人たちがチームとして「主体的」に動く姿そのものでした。

この経験は、学校の授業だけに留まりません。

ご家庭での家事の分担や、職場での業務の振り分けでも、同じようなことが起きていないでしょうか。

「今までずっとこうしてきたから」と、一人で1から10まで抱え込んでいる仕事。 「この担当はこの人」と決めつけ、お互いに準備に追われている作業。

ほんの少し切り口を変えて、「3対1で分けてみない?」「この1時間だけ私が交替しようか?」と提案してみる。それだけで、チーム全体の時間が劇的に浮き、心に余白が生まれることがあります。

前例がないことを始めるとき、最初は少し勇気がいります。 でも、その一歩の先には、教員が笑顔で教材に向き合い、子どもたちが生き生きと学ぶ「新しい環境」が待っていました。

あなたの目の前にある「当たり前」の中にも、もっとみんなが楽に、もっと豊かになれる「組み替えの種」が眠っているかもしれません。

明日の朝、いつも通りにこなしているその業務を、少しだけ離れた場所から眺めてみませんか。

「これ、別の分け方にしてみたらどうなるだろう?」

そんな小さな疑問を、隣の同僚や家族にそっと投げかけてみることから、新しい環境づくりは始まっています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました