サッカーでは、夢を語れる。
サッカーでは、自分で目標を決められる。
サッカーでは、失敗しても何度でも挑戦できる。
なのに、授業になると、
「分からない。」
「勉強は嫌い。」
「言われたことをやるだけ。」
そんな子がいます。
私は、ずっと不思議に思っていました。
「この子は、本当に勉強ができないのだろうか?」
サッカーの世界で出会う子どもたち
私は学校の仕事とは別に、サッカーのトレセンに関わっています。
現在は、選手を指導するだけでなく、トレセン全体を統括しています。
そこで、サッカーがとても上手な子どもたちと関わっています。
そんな中で、指導者から時々こんな話を聞くことがあります。
「サッカーはめちゃくちゃ上手いんですけどね。勉強ができないんですよ。」
その言葉を聞くたびに、私は少し違う見方をしてきました。
本当に、その子は「勉強ができない」のだろうか。
サッカーでは、ものすごく考えている。
「次はこうしたい。」
「ここで相手を抜きたい。」
「次の試合では2点取りたい。」
「このプレーができるようになりたい。」
そして、そのために練習する。
失敗したら、もう一度やってみる。
うまくいかなければ、方法を変えてみる。
つまり、その子は「学べない」のではありません。
学ぶ力は、すでに持っている。
ただ、その力を「勉強」という場面で、どう使えばいいのかを知らないだけなのかもしれません。
「サッカー、楽しいぜ!」
以前、サッカーが大好きな子どもと関わる機会がありました。
サッカーの話になると、とにかく楽しそう。
「サッカー、楽しいぜ!」
そんなふうに話してくれる子でした。
「将来どうなりたい?」
と聞けば、夢を語る。
「じゃあ、次の試合ではどうしたい?」
と聞けば、
「2点取りたい。」
「ドリブルで2人抜きたい。」
そんな具体的な目標まで出てきます。
そして、
「そのために、今何をする?」
と聞けば、自分なりに考える。
夢を描いて、目標を決めて、そこから逆算して今やることを考える。
サッカーでは、それが自然にできているのです。
ところが、勉強になると表情が変わる。
「勉強は嫌い。」
そこで、
「授業中って、何してるの?」
と聞いてみました。
すると、
「ぼーっとしてるか、やれって言われたことをやってる。」
という答え。
そこで、もう一つ聞きました。
「サッカーでさ、ずっと『ドリブルしろ』『ディフェンスしろ』『今日はこれやれ』って言われ続けたら、楽しい?」
「楽しくない。」
「じゃあ、今の授業って、ちょっとそれに似てない?」
そう聞くと、少し考えていました。
サッカーでは、自分で目標を決めている
考えてみると、サッカーでは自分で目標を決めています。
「2点取りたい。」
「ドリブルで2人抜きたい。」
ところが授業では、
「今日は○○を勉強します。」
と、最初から目標が与えられている。
もちろん、教師が学習の目標を設定することは大切です。
でも、それとは別に、
「今日、自分は何をしてみようか」
と、子ども自身が考える余地があってもいい。
そこで、
「じゃあ、授業でもサッカーみたいに、自分で目標を決めてみたら?」
と伝えてみました。
そして考えたのが、
「パス」「アシスト」「シュート」
でした。
① パスをもらう
サッカーで、パスが欲しいときには、
「パスちょうだい!」
と言います。
授業でも同じです。
分からないことがあったら、
「教えて。」
と言ってみる。
これは、パスをもらうこと。
「分からない」と言うのは、負けではありません。
ゴールに近づくために、仲間からパスを受ける。
そう考えてみる。
「分からないから教えて」
は、授業の中で出すパスです。
② アシストする
サッカーでは、ゴールにつながるパスを出すことをアシストと言います。
授業でも、
「ここ、分かったよ。」
「こういうことだよ。」
と、自分が分かったことを誰かに伝える。
これはアシストです。
だから、
「今日は2アシストする。」
と決めてもいい。
つまり、
「今日は2人に、自分が分かったことを教える。」
人に教えることは、相手のゴールを助けるだけではありません。
自分自身の理解も、もう一段深くなります。
③ シュートを打つ
そして最後はシュート。
サッカーでは、ゴールに向かってシュートを打つ。
授業では、
自分の考えを、みんなの前で伝える。
手を挙げて発表する。
自分の考えを言葉にして届ける。
これを「シュート」と考えてみる。
パスをもらう。
アシストする。
そして、自分からシュートを打つ。
「今日、2点取った!」
そんなふうに話をしていると、その子が実際にやってみました。
授業のあと、
「今日、アシスト決めた!」
そして、
「2点取った!」
と、嬉しそうに話してくれました。
私は、この瞬間がとても大切だと思っています。
「勉強ができた」ということだけではありません。
自分で目標を決めた。
自分から動いた。
そして、自分で達成した。
その経験が生まれたからです。
大切なのは、サッカーを授業に取り入れることではない
ここで大切なのは、
「サッカーが好きな子には、サッカーを使えばいい」
という話ではありません。
もっと大切なのは、
「その子が夢中になっているとき、どんな学び方をしているのか?」
を見ることだと思います。
サッカーが好きな子なら、
「目標を決める」
「逆算する」
「仲間からパスをもらう」
「仲間にアシストする」
「自分でシュートを打つ」
という学び方をしているかもしれない。
ゲームが好きな子なら、
「次のステージに進む」
「攻略方法を考える」
「失敗したらやり直す」
「仲間と情報交換する」
という学び方をしているかもしれません。
絵が好きな子なら、
「昨日より少し上手くする」
「工夫する」
「人の作品を見る」
という学び方をしているかもしれない。
虫が好きな子なら、
「新しいものを発見する」
「違いを比べる」
「もっと知りたくなる」
という学び方をしているかもしれません。
つまり、
子どもの「好き」の中には、その子なりの「学び方」が隠れている。
そこを見つけて、教室につないでみる。
「勉強ができない子」ではなく、「学び方を知らない子」かもしれない
私たちは、ときどき子どもを、
「勉強が苦手」
「やる気がない」
「集中できない」
と見てしまいます。
でも、その子が別の場所では、
夢中になっている。
目標を持っている。
工夫している。
失敗しても、また挑戦している。
そんな姿を見せているのなら、
その子には、すでに「学ぶ力」があるのではないでしょうか。
ただ、その力を教室でどう使えばいいのかを、まだ知らない。
そんな可能性もあると思います。
だから、
「勉強しなさい。」
の前に、
「君は、好きなことをしているとき、どうやって上手くなってる?」
と聞いてみる。
その答えの中に、その子の「伸びるスイッチ」が隠れているかもしれません。
明日、教室で一人だけ見つけてみる
「この子は何が好きなんだろう?」
だけではなく、
「この子は、好きなことをしているとき、どんな学び方をしているんだろう?」
と見てみる。
そして、その学び方を授業につないでみる。
教師が新しい力を与えるだけではなく、
その子がすでに持っている力を見つけて、別の場所でも使えるようにつなぐ。
それも、教師にできる大切な仕事なのだと思います。
「勉強しなさい」ではなく、
「君は、好きなことをしているとき、どうやって上手くなってる?」
そんな問いから、授業を変えてみる。
サッカーでパスを求めるように、
「教えて」と言える。
サッカーでアシストするように、
「分かったこと」を誰かに伝える。
そして、シュートを打つように、
自分の考えをみんなに届ける。
子どもがすでに持っている「伸びる力」を、教室の中につないでいく。
そんな授業を、もっと増やしていきたいと思っています。


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