番号のある世界⑩

名前のないカード。

私の顔だけが印刷されている。

無機質な白。

番号だけが
黒く刻まれていた。

震える指で持ち上げる。

その瞬間、

スマホが鳴る。

「本人情報が確定しました」

画面の文字。

ゆっくりと表示される。

氏名。
住所。
生年月日。

すべてが埋まっていく。

だが。

そこに書かれていたのは
見知らぬ人生。

知らない家族。
知らない職業。
知らない経歴。

私は思わず笑った。

乾いた、声。

「誰だよ……これ」

カードを裏返す。

小さな注意書き。

「番号は個人を識別する唯一の基準です」

その下。

さらに小さな文字。

「個人とは、番号によって定義されます」

理解が追いつく。

順番が違ったのだ。

私は生きていたのではない。

割り当てられていた。

人生に。

番号に。

私は
“私”だったのではない。

ただ、

その番号の
運用結果だった。

窓の外。

通りを歩く人々。

皆、同じ顔に見えた。

違うのは――番号だけ。

カードを机に置く。

もう一度見る。

顔写真の私が
微笑んでいる。

どこか他人のように。

そのとき、

最後の通知が届いた。

「統合処理が完了しました」

静かな表示。

「ご本人様の重複が解消されました」

私は画面を見つめる。

そして、

ふっと理解する。

消えたのは、

あの男ではなかった。

最初から――

余分だったのは
私の方だったのだ。

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