広島観音高校は、なぜ強くなったのか。20年以上前の実践が、今につながっている。

広島観音サッカー部は、なぜ強くなったのか―知将畑喜美夫監督の育成システムを大公開 (ザメディアジョンMJ新書) | 伊藤 和之 |本 | 通販 | Amazon
Amazonで伊藤 和之の広島観音サッカー部は、なぜ強くなったのか―知将畑喜美夫監督の育成システムを大公開 (ザメディアジョンMJ新書)。アマゾンならポイント還元本が多数。伊藤 和之作品ほか、お急ぎ便対象商品は当日お届けも可能。また広島観音...
Screenshot

『広島観音高等学校サッカー部はなぜ強くなったのか』という本を読んだことはあるでしょうか。

2000年代初頭、広島観音高校サッカー部がどのように力をつけ、インターハイ優勝に至ったのか。その歩みを、トレーナーの視点から描いた一冊です。当時、チームを率いていたのが畑喜美夫先生です。

私は、この本を読んだことがきっかけで、畑先生の実践に関心をもちました。しかし、書かれている内容を頭で理解することと、実際の選手たちの姿を通して、その意味を理解することは違いました。

そして今から2か月ほど前、当時の実践が自分の中で改めてつながる、忘れられない時間がありました。

当時、一緒に取り組んでいた選手と、お酒を飲みながら語り合う機会があったのです。

その選手は、今では日本を代表するフットサル選手として活躍しています。

その選手と話す中で、当時のボトムアップ指導が、今の自分につながっているという話をしてくれました。

自分たちで考え、話し合い、次の行動につなげる。自分たちで決めて取り組むからこそ、自分たちにも責任がある。そして、そうやってチームをつくっていったからこそ、実際に強くなれたのだと。

そんな話を聞きながら、私はとてもうれしくなりました。

もちろん、一人の選手の言葉だけで、指導方法のすべてが証明されるわけではありません。しかし、当時の実践を経験した選手が、年月を経た今、自分自身の成長と結び付けて語ってくれた。そのことに、大きな意味を感じました。

指導者が考えていたことが、選手の中にどのように残り、その後の人生や競技生活にどうつながっていくのか。それを、当時の選手本人の言葉から聞くことができたのです。

勝った、負けた。大会でどこまで勝ち上がった。もちろん、それもスポーツの大切な側面です。

しかし、選手たちが自分で考え、判断し、自分たちの行動に責任をもち、仲間とともによりよい方向へ進んでいく。その力が、チームを離れた後にも生きているとしたら。

それもまた、指導の大きな成果なのではないでしょうか。

本を読んだだけでは終わらなかった

実は、私自身も、この本との出会いをきっかけに行動を起こした一人です。

本を読んだ当時、私は勤務校で、見よう見まねではありましたが、ホワイトボードを使ったミーティングなど、選手たちが自分たちで考え、話し合う場づくりに取り組み始めました。

まずは、自分にできることからやってみよう。そんな思いで始めた実践でした。

さらに、安芸南高校がこちらの地域に遠征に来るたびに、私は選手たちと一緒に学びに行きました。

畑先生の実践から学びたい。そして、選手たちにも実際に見て、感じて、学んでほしい。そんな思いがありました。

安芸南高校の皆さんは、私たちのようなチームにもオープンな姿勢で接してくださり、選手たちが実際に練習に参加させていただく機会もありました。

遠くから見ているだけでは分からないことがあります。同じ場所で練習し、選手たちと関わり、実際に体験するからこそ気づけることがあります。私にとっても、選手たちにとっても、本当に貴重な学びの機会でした。

私たちは、決して最初から強いチームだったわけではありません。いわゆる地方の弱小チームでした。それでも、学んだことを少しずつ取り入れ、選手たちと一緒にチームづくりを進めてきました。

その結果、少なくとも私自身は、地域の中で一つの手本となるようなチームに変わっていくことができたと自負しています。

もちろん、サッカーである以上、勝つこともあれば負けることもあります。競技成績だけを見れば、また違った評価もあるでしょう。

しかし、今、当時の自分たちのチームを振り返ってみても、私は「このチームを応援したい」と思えます。

選手たちが自分たちで考え、仲間と話し合い、よりよいチームをつくろうとする。その姿を見て、応援したいと思えるチームをつくることができた。これは、私にとって大きな財産です。

そして、当時の選手が今、日本を代表するフットサル選手として活躍し、あの頃の経験が今につながっていると語ってくれた。

指導者として、こんなにうれしいことはありません。

本を読んで感銘を受けるだけなら、そこで終わっていたかもしれません。実際に学びに行き、選手たちとともに体験し、自分たちなりに実践してみたからこそ、得られたものがありました。

だからこそ、私は今も、畑先生の実践には学ぶ価値があると感じています。

それは、広島観音高校がインターハイで優勝したからだけではありません。学んだことを自分たちの現場に持ち帰り、目の前の選手たちとともに実践することで、チームづくりそのものが変わっていく可能性を、私自身が感じてきたからです。

そして、その実践が、何年もたった後に選手自身の言葉となって返ってきた。今回の再会は、私にとって、当時の取り組みを改めて振り返る機会にもなりました。

20年以上前の実践は、今の教育につながっている

「それはもう20年以上前の話でしょう」

そう思う人もいるかもしれません。

しかし、私はむしろ、今だからこそ学ぶ価値があると感じています。

現在の学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」。この言葉を知っている人は多いと思います。

では、それを日々の実践として、どこまで形にできているでしょうか。

子どもたちが自分で考え、仲間と対話し、課題を見つけ、解決に向けて動き、振り返って次につなげる。指導者はすぐに答えを与えるのではなく、必要な場面で問いを投げかけ、勇気づけ、選手たちが自ら動き出せるように支える。

私は、畑先生のボトムアップ理論の実践に、主体的・対話的で深い学びを「実装する」ための具体的な姿を見ることができると考えています。

大切なのは、言葉として理解することではありません。

普段の練習やミーティング、試合前の準備、ハーフタイムの話し合い、試合後の振り返り。その一つ一つの場面で、選手たちが自分たちで考え、対話し、判断し、行動できるようにすることです。

特別な時間だけ主体性を求めるのではありません。日常の中に、主体的に考え、対話し、問題を解決する機会をつくっていく。つまり、主体的・対話的で深い学びを、日々の営みの中に実装していくということです。

そして、実践はサッカーの技術や戦術を高めることだけにとどまりません。

自分の考えをもち、仲間の考えに耳を傾け、異なる意見をすり合わせ、集団としてよりよい答えをつくり出していく。その経験自体が、人を育てていくのだと思います。

今回、当時の選手と話して改めて感じたのは、選手たちが自分で考えるということは、単に指導者の指示を減らすことではないということです。

自分たちで考えるからこそ、自分たちにも責任が生まれる。自分たちで決めたことだからこそ、次の行動につなげようとする。

その経験が、チームの力になり、人としての成長にもつながっていく。

これは、サッカーだけの話ではありません。学校教育にも、職場での組織づくりにも通じるものがあるのではないでしょうか。

ボトムアップだけでいいわけではない

もちろん、選手に任せればすべてうまくいくわけではありません。

指導者が方向性を示し、必要な場面で判断し、責任をもって導くことも欠かせません。

だからこそ、トップダウンか、ボトムアップかという二者択一ではないのです。

指導者が示すべきことは示す。一方で、選手たちが考え、決め、行動する機会は奪わない。

両者をどう組み合わせるか。

私は、トップダウンとボトムアップを融合させた指導にこそ、大きな可能性があると考えています。

その後、畑先生が広島観音高校を離れ、安芸南高校サッカー部の監督を務められた際にも、私はその実践に注目してきました。

チームが競技力を高めていく過程にも、指導者が一方的に教え込むのではなく、選手たちの主体性を引き出すという考え方が貫かれていたと、私は受け止めています。

一度の優勝を称賛するだけではなく、環境が変わっても、選手が変わっても、その考え方をどう生かし、成果につなげていくのか。

ここに、私は大きな学びがあると思っています。

大切なのは、再現性という視点

実践を学ぶとき、私が大切にしたいのは「再現性」という視点です。

もちろん、同じ方法をそのまま取り入れれば、どのチームでも同じ結果が出るという単純な話ではありません。選手も環境も違います。

しかし、実践の根底にある考え方を理解し、自分たちの環境に合わせて工夫することはできます。

なぜ、その場面で選手に考えさせたのか。なぜ、指導者はすぐに答えを与えなかったのか。どのような問いかけが、選手たちの対話や行動につながったのか。

表面的な方法だけをまねるのではなく、その背景にある意図まで学ぶ。そして、自分たちの現場で試し、振り返り、改善する。

そうすることで、実践は少しずつ自分たちのものになっていくのだと思います。

私自身も、畑先生の実践を学んだからといって、すべてをそのまま取り入れてきたわけではありません。自分たちの選手や環境に合わせながら、できることから取り組んできました。

だからこそ、学ぶことには意味があると感じています。

そして、何年もたった今、当時の選手と語り合う中で、あの頃の経験が今の自分につながっているという言葉を聞くことができました。

実践の価値は、その場の結果だけでは測れない。時間がたってから見えてくるものもあるのだと思います。

講演を聞くだけでなく、本人と対話してみる

では、どうすれば、そうした学びを深められるのでしょうか。

私は、畑先生の講演を聞くことはもちろん、大きな学びになると思います。

しかし、可能であれば、ぜひご本人と直接対話する機会をつくってほしいと考えています。

講演は、多くの人に考え方や実践を届けることができる貴重な機会です。一方、対話では、自分たちのチームや学校が抱えている具体的な課題をもとに、問いを投げかけることができます。

「自分たちのチームなら、どう取り入れればよいのか」

「選手がなかなか意見を出せないとき、どのように関わればよいのか」

「主体性を大切にしながら、チームとして必要な規律をどう築くのか」

そうした問いをもち、実際に話を聞き、自分の考えをぶつけてみる。

そこで得られる学びは、講演を聞くだけでは得られない深さをもつのではないでしょうか。

そして、学んだことを実践し、うまくいかなかったことも含めて振り返る。必要ならば、また問い直す。

学びは、聞いた瞬間に完成するものではありません。実践と振り返りを繰り返す中で、少しずつ自分のものになっていくのだと思います。

よいと思ったものは、素直にまねをする

もう一つ、私が大切にしていることがあります。

それは、よいと思ったものは、素直にまねをしてみることです。

これは、山口県の福山憲市先生から学んだことでもあります。

誰から学ぶか、どこの団体から学ぶか。それだけで可能性を狭めてしまうのは、もったいないことです。

よい実践は、よい実践として学べばいい。自分とは考え方が違う人からでも、学べることはあります。

ただし、学んだことをそのまま受け入れるのではありません。

何を取り入れるのか。何を自分たちの環境に合わせて変えるのか。そして、実践するかどうかを最後に判断するのは、自分自身です。

誰かに言われたからやるのではない。特定の人の考え方だけを正解とするのでもない。

さまざまな人や団体から学び、自分の頭で考え、自分の責任で判断し、行動する。

私は、そうしたことが保障される学びの場こそ、大切にしたいと思っています。

何か一つの考え方を絶対的な正解として、それ以外を認めない。そうした関係ではなく、互いの実践から学び合い、自分の考えを深めていける関係でありたいのです。

学ぶことは、誰かの信者になることではありません。誰かの言葉をそのまま正解として受け入れることでもありません。

人から学び、自分で考え、解釈し、実践する。

その過程を大切にしたいと思っています。

私は、畑喜美夫先生を応援したい

畑先生は、教員を退職された後も、全国各地で講演活動を続けながら、学び、実践を伝え続けておられます。

私が素敵だなと感じるのは、過去の実績だけにとどまらず、今もなお学び続け、進化し続けようとするその姿勢です。

過去の栄光を語るだけなら、いつかその実践は過去のものになってしまうかもしれません。しかし、自ら学び続ける人の実践は、時代や場所を越えて、新たな意味をもち続けるのだと思います。

私自身、まだまだ学ぶことばかりです。

だからこそ、過去の実績にとらわれず、今も学び続けている人から学びたい。そして、そこで得たものを、自分の実践につなげていきたいと考えています。

畑喜美夫先生の実践に関心のある方、ボトムアップの考え方を学びたい方、学校教育やスポーツ指導の中で主体性をどう育てるか悩んでいる方がいらっしゃったら、ぜひ一度、畑先生のお話を聞き、対話する機会をつくってみてはいかがでしょうか。

「畑先生を自分たちの地域に呼んでみたい」

「チームや学校で一緒に学んでみたい」

もし、そう思われた方がいらっしゃいましたら、ぜひお声掛けください。

私も、畑先生から学ぶ機会がもっと広がってほしいと思っています。

ご本人から学びたい人と、実践を伝え続けておられる畑先生。その両者をつなぐきっかけを、自分の発信からつくることができたらうれしいです。

誰かを応援するというのは、ただ「すごいですね」と言葉にすることだけではないと思います。

その人が大切にしている実践を、自分自身が学ぶ。価値を感じたことを自分の言葉で伝える。そして、学びたいと思う人へとつないでいく。

私は今、畑喜美夫先生を応援したいと思っています。

そして、当時一緒に取り組んだ選手が、今もその経験を自分の中に生かしてくれていることを、本当にうれしく思っています。

あの頃、本を読んで始めた小さな実践。見よう見まねで取り組んだホワイトボードでのミーティング。選手たちと一緒に出かけ、安芸南高校の皆さんから学んだ時間。

その一つ一つが、今につながっているのかもしれません。

だからこそ、これからも学び続け、よいと思った実践を自分なりに解釈し、周りの人たちと共有していきたい。

人から学ぶ。自分で考える。実践する。そして、よいと思ったものを次の人へつなぐ。

そんな学びの輪が、一つでも広がっていけばうれしいです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました