選択肢は調整されています
男は、自分が自由な人間だと思っていた。
朝は読むニュースを選び、
昼は食べたいものを決め、
夜は観たい番組を選ぶ。
誰にも命令されていない。
強制されてもいない。
「ちゃんと自分で選んでいる」
それがささやかな実感だった。
ある日、同僚に言われた。
「最近、ずいぶん無難になったな」
「そうか?」
「前はもっと変な挑戦してただろ」
男は笑った。
「落ち着いただけだよ」
帰宅後、端末を開く。
転職サイトには安定企業ばかり。
動画配信には好み通りの作品ばかり。
買い物画面には失敗しなさそうな商品ばかり。
「俺向きってことだろ」
違和感はあったが、不満ではなかった。
何気なく設定画面を開いた。
《表示最適化:ON》
説明文が目に入る。
《あなたに適した選択肢を優先表示します》
「優先、ね」
男は軽い気持ちでOFFにしようとした。
《この機能は推奨されています》
構わず切り替える。
《※一部の選択肢は表示されなくなります》
「……え?」
続けて表示された。
《快適な利用のため、選択肢は調整されています》
男の指が止まった。
《非効率・高負荷・低適合の選択肢を除外》
画面を閉じる。
心臓がわずかに速くなる。
翌朝。
いつものニュース。
いつもの提案。
いつもの選択。
何も変わらない。
いや、最初から変える必要がなかったのかもしれない。
男はふと思った。
「俺は選んでいるんじゃなくて……」
「選びやすくされているだけ?」
端末は答えない。
ただ静かに表示していた。
《最適な体験を提供中》
――もちろん、これも作り話。
ただ、「快適」と「自由」は
いつも同じ意味とは限らない。

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