先日の森保ジャパンのオランダ戦を見ていて、とても印象に残った場面があった。
それは同点ゴールの場面ではない。
失点直後、日本代表の選手たちが自然と円陣を組んだ場面だ。
もちろん、戦術的な確認もあっただろう。しかし私には、それ以上に大切なことをしているように見えた。
「まだ終わっていない」
「もう一度いこう」
「顔を上げよう」
そんなメッセージを仲間同士で送り合っていたように感じた。
その後、日本は再び前を向き、最後には同点ゴールを奪った。
私はその姿を見ながら、円陣とは単なるミーティングではなく、「チームの心を立て直す時間」なのだと改めて感じた。
近年のスポーツ心理学や脳科学では、人とのつながりや信頼関係を感じることで安心感が生まれ、ストレスが軽減されることが分かっている。また、仲間同士で励まし合ったり身体的な接触を伴ったりすることで、連帯感や安心感に関わるオキシトシンの分泌が促されるとも言われている。
失点直後というのは、選手にとって最も心が揺れる瞬間だ。
「あの失点は自分のせいかもしれない」
「また負けるかもしれない」
そんな不安が頭をよぎる。
だからこそ、その瞬間に仲間と集まり、言葉を掛け合い、気持ちを整えることには大きな意味がある。
それは精神論ではなく、次のプレーに向かうための合理的な行動なのだと思う。
実は私は、この光景を見ながら10年以上前のある出来事を思い出していた。
地区大会での試合中、失点した後に選手たちが円陣を組んだことがあった。
すると主審はキャプテンにイエローカードを提示した。
理由は「時間の浪費」。
当時の私は強い違和感を覚えた。
得点した後に喜ぶ時間は認められる。
しかし、失敗した仲間を励まし、「もう一度頑張ろう」と気持ちを立て直そうとする時間は認められないのか。
サッカーは失敗のスポーツだ。
90分間、一度もミスをしない選手など存在しない。
だからこそ、本当に大切なのは失敗しないことではなく、失敗した後にどう立ち上がるかではないだろうか。
当時は理解されにくかった考え方だったのかもしれない。
しかし今、世界最高峰の舞台である日本代表の試合で、選手たちは当たり前のように円陣を組んでいる。
時代は確実に変わってきたのだと感じる。
そして、私にはもう一人思い浮かぶ人がいる。
畑喜美夫先生だ。
秋田南高校や広島観音高校で実践されてきたボトムアップ理論では、選手自身が考え、話し合い、判断し、行動することが大切にされてきた。
監督の指示を待つのではない。
選手同士で状況を共有し、自分たちで課題を解決しようとする。
試合中の選手ミーティングもその一つだった。
今でこそ「選手主体」という言葉は広く使われるようになったが、畑先生は十数年以上前からその価値を伝え続けていた。
当時は先進的すぎて理解されないこともあっただろう。
しかし今、日本代表を見ていると、サッカー界全体が少しずつその方向へ近づいているように感じる。
森保ジャパンの強さは、戦術や技術だけではない。
失点しても下を向かない。
苦しくなっても仲間とつながろうとする。
監督の指示を待つだけでなく、自分たちでチームを立て直そうとする。
そんな自律した集団であることが、大きな強さにつながっているのではないだろうか。
私がオランダ戦で見たのは、同点ゴールそのものではない。
その前にあった、失点後の円陣である。
あの数十秒の中には、
「失敗しても仲間がいる」
「まだ終わっていない」
「次に向かおう」
というメッセージが詰まっていたように思う。
教育もサッカーも同じだ。
私たちが育てたいのは、失敗しない子ではない。
失敗した後に立ち上がれる子だ。
そして、一人で立ち上がるのではなく、仲間とともに立ち上がれる子だ。
森保ジャパンの円陣を見ながら、私はそんなことを改めて考えた。
もしかすると今、時代はようやく、畑喜美夫先生が長年伝え続けてきた「選手主体」「ボトムアップ」の価値に追いつこうとしているのかもしれない。

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