「番号が無効です」
その言葉が、頭から離れない。
窓口の職員は困った顔をしていた。
「ですが……確かに存在しています」
「え?」
「同じ番号の方が」
背中が冷たくなる。
「こちらの方です」
モニターが回される。
映し出されたのは――
私だった。
いや、
“私と同じ顔の誰か”。
「昨日、手続きされています」
職員は淡々と言う。
「住所変更、口座登録、保険資格確認……」
昨日?
私は何もしていない。
「そんなはずありません」
声が震える。
「私はここにいます」
職員は一瞬だけ視線を落とし、
そして静かに告げた。
「システム上の本人は、あちらです」
意味を理解するまでに
数秒かかった。
「番号が本人を定義しますので」
番号が。
本人を。
定義する。
「あなた様の情報は……」
キーボードを叩く音。
「統合処理中、となっています」
「統合……?」
「はい」
職員は申し訳なさそうに微笑む。
「重複解消のため」
私は立ち上がった。
逃げるように庁舎を出る。
スマホを取り出す。
銀行アプリ。
ログイン不可。
保険証アプリ。
利用停止。
行政ポータル。
該当データなし。
世界から
静かに削除されていく感覚。
そのとき、
通知がひとつ届いた。
「本人確認が完了しました」
差出人:公的個人認証
画面の下に表示された名前。
知らないはずの名前。
でも、
顔写真は――私。
遠くで、
誰かが私の名前を呼んだ。
振り向く。
あの男が立っていた。
もう一人の私。
「大丈夫ですよ」
穏やかな声。
「統合されるだけです」
「……何と?」
彼は少しだけ首をかしげた。
「番号に、ですよ」

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