番号のある世界⑧

「番号が無効です」

その言葉が、頭から離れない。

窓口の職員は困った顔をしていた。

「ですが……確かに存在しています」

「え?」

「同じ番号の方が」

背中が冷たくなる。

「こちらの方です」

モニターが回される。

映し出されたのは――
私だった。

いや、

“私と同じ顔の誰か”。

「昨日、手続きされています」

職員は淡々と言う。

「住所変更、口座登録、保険資格確認……」

昨日?

私は何もしていない。

「そんなはずありません」

声が震える。

「私はここにいます」

職員は一瞬だけ視線を落とし、
そして静かに告げた。

「システム上の本人は、あちらです」

意味を理解するまでに
数秒かかった。

「番号が本人を定義しますので」

番号が。

本人を。

定義する。

「あなた様の情報は……」

キーボードを叩く音。

「統合処理中、となっています」

「統合……?」

「はい」

職員は申し訳なさそうに微笑む。

「重複解消のため」

私は立ち上がった。

逃げるように庁舎を出る。

スマホを取り出す。

銀行アプリ。
ログイン不可。

保険証アプリ。
利用停止。

行政ポータル。
該当データなし。

世界から
静かに削除されていく感覚。

そのとき、

通知がひとつ届いた。

「本人確認が完了しました」

差出人:公的個人認証

画面の下に表示された名前。

知らないはずの名前。

でも、

顔写真は――私。

遠くで、

誰かが私の名前を呼んだ。

振り向く。

あの男が立っていた。

もう一人の私。

「大丈夫ですよ」

穏やかな声。

「統合されるだけです」

「……何と?」

彼は少しだけ首をかしげた。

「番号に、ですよ」

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