「お前を逮捕する。スマホを持っているからだ。」
もし、こんな社会になったらどうだろうか。
笑い話に聞こえるかもしれない。しかし、想像してみることで、私たちは初めて“スマートフォンの危険性”を真正面から見ることができるのではないか。
スマホ規制は必要なのか？
近年、子どものスマートフォンやゲーム依存が社会問題となり、「法律で使用を制限すべきだ」という声が強まっている。しかし、規制すれば人が健全になるのかと言われれば、それほど単純ではない。
大人の健康を守るために食事制限を法律で定めることはできても、それで幸せな生活になるわけではない。
通り魔事件があるからといってナイフを全面禁止にしても、本質的な解決ではない。
スマホを規制したところで、子どもが自動的に勉強を始める保証もない。
言ってしまえば、「怪我をするから包丁を使うな」と言うのと同じだ。
問題は「目に見えない依存」
ただし、刃物とスマホの大きな違いがある。
スマホの害は“目に見えない”という点だ。
依存は深まってからでは、すでに遅い。
その構造は薬物依存と驚くほど似ている。
スマホ・SNSの通知音が鳴るたびに脳はドーパミンを放出し、短期的な快感と承認を得る。
その成功体験が繰り返されるほど、脳は「報酬がもらえるパターン」を学習し、次第にその刺激なしでは落ち着かなくなる。
もはや現代の依存は、注射針でも粉でもない。
ただの 光る画面と指先の動き によって広がっている。
高校生のスマホ依存の深刻さを「麻薬中毒者に近い」と指摘する研究さえある。
薬物より厄介なのは、合法で、自由に持ち歩けて、24時間いつでも摂取できる点だ。
被害は静かに確実に広がっている
・学力の低下
・睡眠障害
・孤立
・幸福感の喪失
これらは刃物のように血は流さない。
けれど確実に、人の心と生活を蝕んでいく。
だから社会が「そろそろ規制を…」と言い始めたことは、決して過剰反応とは言い切れない。
では禁止すれば良いのか？
ここで話は冒頭に戻る。
「スマホを持っていたら逮捕される社会」
そんな世界にしてしまえば依存は確かに減るだろう。
しかし、それで私たちは本当に幸せになれるのだろうか？
包丁と同じだ。
料理を覚えるからこそ便利に使える。
一歩間違えれば危険だからこそ、扱い方を学ばなければならない。
大切なのは――
・依存に気づける力
・距離を調整できる力
・自分を律する力
そして、その力は教育によって育つ。
子どもだけではない。
大人も同じだ。大人が手本を見せてこそ子どもは学ぶ。
規制より先に問われていること
スマホを持つことが悪いのではなく、
スマホに「心と時間を奪われる」ことが問題だ。
私たちが向き合うべき問いは、こうだ。
スマホの便利さを捨てるのか？
それとも、飲み込まれずに使いこなす力を育てるのか？
禁止か、放任か、という単純な議論ではなく、
人間の意志と判断力をどう守り、回復していくのか。
そこにこそ、私たちの知恵と責任が問われている。
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