そのカードは知っている
カードを作ってから、生活は驚くほど整った。
役所の手続きは速くなり、病院の受付で待たされることも減った。
通知は的確で、案内は親切。
「便利な時代になったな」
男は素直にそう思っていた。
ある日、端末に通知が届いた。
《本日18:40 ○○駅周辺》
男は眉をひそめた。
確かに、そのあたりへ行こうかと“ぼんやり”考えていた。
だが、まだ誰にも言っていない。検索もしていない。
「偶然だろ」
次の日。
《最近、甘い物を控えていますね》
「……は?」
確かに控えていた。健康診断の結果を見てから。
しかし、食事記録など一度も入力していない。
気味が悪くなり、履歴を確認する。
入力データなし。
自己申告なし。
それでも画面には表示されていた。
《行動傾向:改善中》
男はカードを机に置いた。
ただのプラスチック。番号が入っているだけのはず。
ふと思う。
「俺が情報を入れてるんじゃない……?」
カードをかざす。
ピッ。
《統合推定による補完》
《入力されていない情報は
行動・位置・時間・関連データから補完されます》
男は乾いた笑いを漏らした。
「なるほど……」
言っていないことも、
書いていないことも、
自分でもはっきり意識していないことも、
“だいたい分かる”。
画面の最後の一文が、やけに静かに光っていた。
《あなたは非常に予測しやすい市民です》
男はカードを裏返した。
便利になった、はずなのに。
なぜか、少しだけ落ち着かなかった。
――もちろん、これは作り話。
ただ、仕組みというものはいつも
「最善の使い方」で語られる。

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