番号のある世界①

そのカードは知っている

カードを作ってから、生活は驚くほど整った。

役所の手続きは速くなり、病院の受付で待たされることも減った。
通知は的確で、案内は親切。
「便利な時代になったな」
男は素直にそう思っていた。

ある日、端末に通知が届いた。

《本日18:40 ○○駅周辺》

男は眉をひそめた。
確かに、そのあたりへ行こうかと“ぼんやり”考えていた。
だが、まだ誰にも言っていない。検索もしていない。

「偶然だろ」

次の日。

《最近、甘い物を控えていますね》

「……は?」

確かに控えていた。健康診断の結果を見てから。
しかし、食事記録など一度も入力していない。

気味が悪くなり、履歴を確認する。

入力データなし。
自己申告なし。

それでも画面には表示されていた。

《行動傾向:改善中》

男はカードを机に置いた。
ただのプラスチック。番号が入っているだけのはず。

ふと思う。

「俺が情報を入れてるんじゃない……?」

カードをかざす。

ピッ。

《統合推定による補完》

《入力されていない情報は
行動・位置・時間・関連データから補完されます》

男は乾いた笑いを漏らした。

「なるほど……」

言っていないことも、
書いていないことも、
自分でもはっきり意識していないことも、

“だいたい分かる”。

画面の最後の一文が、やけに静かに光っていた。

《あなたは非常に予測しやすい市民です》

男はカードを裏返した。

便利になった、はずなのに。

なぜか、少しだけ落ち着かなかった。

――もちろん、これは作り話。
ただ、仕組みというものはいつも
「最善の使い方」で語られる。

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