あの星新一の物語が思い出せない
星新一の作品には、妙な記憶の残り方をする話が多い。
タイトルは忘れた。
細部も曖昧。
なのに「感触」だけが消えない。
私の中に長く残っている物語がある。
それは確か、赤の他人たちの話だった。
無関係な人間が登場し、場面が移り、視点が変わり、物語が静かに連鎖していく。
最初は何気ない出来事だった気がする。
日常。
偶然。
ちょっとした行動。
それが別の人物へと影響し、さらに別の赤の他人へつながっていく。
まるでバトンリレーのように。
そして最後。
何かが起きた。
確か──犯罪だった気がする。
殺人だったのか、詐欺だったのか、事故だったのか。
そこははっきりしない。
でも覚えているのは、
「え……全部つながってたのか」
という、あの独特の感覚。
背筋がゾワっとするような、納得と不気味さが同時に押し寄せる感じ。
星新一の物語は不思議だ。
内容を忘れても、感情だけが残る。
結末を思い出せなくても、「読後の違和感」だけが生き続ける。
もしかすると私は、一つの作品ではなく、いくつかの短編の記憶を混ぜているのかもしれない。
赤の他人。
連鎖。
偶然。
最後の犯罪。
この要素は、いかにも星新一的だ。
短い物語なのに、人生より長く残る。
それがショートショートの怖さなのかもしれない。
今でも時々思う。
あの話は何だったのだろう。
もう一度読み返したい。
けれど、星新一作品はあまりにも多い。
そしてどの物語も、「これだったかもしれない」と思わせてくる。
もしこの話に心当たりがある人がいたら、ぜひ教えてほしい。
きっと私は、あの「思い出せない物語」をずっと探し続けているのだ。

コメント