私たちは、つい「目に見える成果」を探してしまう。
ゴールを決めた選手、ボールを奪った選手、正解を言えた子。
しかし、チームスポーツや教室をよく見ていると、
本当に流れを変えているのは、そこではない場面であることが多い。
① その場では何も起きていないように見えるプレー
サッカーで言えば、こんな場面だ。
• 前線の選手が、全力で奪いに行かず、コースを切って寄せる
• バックラインが、前進せずに速いテンポでパスを回し続ける
どちらも、その瞬間には
• ボールは奪えない
• ゴールには近づいていない
一見すると、
「もっと頑張れ」「前に行け」「奪いに行け」
と言いたくなる場面である。
② しかし、確実に“何か”は起きている
前線の守備がコースを切ることで、相手は自由を失う。
バックラインの速いパス回しによって、相手は走らされ続ける。
結果として起きているのは、
• 判断が一瞬遅れる
• 立ち位置がズレる
• 同じプレーなのに、急に通り始める瞬間が来る
つまり、
その場では成果が見えにくいが、後で効いてくる一手
が、確実に積み重なっている。
サッカーではこれを
**「誘導」や「準備」**と呼ぶ。
③ 教室で言えば、それは「布石」
この構造は、教室でも全く同じだ。
• すぐに答えを言わない
• 評価せずに問い返す
• あえて結論を保留する
すると、その場では
• 沈黙が生まれる
• すぐに正解が出ない
だが、その“何も起きていない時間”があるからこそ、
• 子ども同士の意見がつながり
• 次の活動で理解が深まり
• 「あ、そういうことか」という瞬間が生まれる
これはまさに、授業における布石である。
④ 見えない貢献が評価されにくい理由
問題は、ここにある。
見えない貢献は、
• 数値にならない
• その瞬間に結果が出ない
• 説明しないと「何もしていない」と誤解される
だからこそ、
• 前線で体を張った守備
• バックラインの速いパス
• 答えを言わずに待った教師
が、評価されにくくなる。
⑤ だから「言語化」が必要になる
重要なのは、
見えない貢献を、見える言葉にすることだ。
例えば、こんな言い換えができる。
• 「奪えなかった」ではなく
→「奪うために誘導していた」
• 「前に行かなかった」ではなく
→「ズレを生むために回していた」
• 「教えていない」ではなく
→「考えが生まれる状況をつくっていた」
こうして初めて、
成果を出していないのではなく、
成果が出る条件を整えていた
と伝えられる。
⑥ 見えない貢献があるから、見える成果が生まれる
ゴールは、突然生まれるように見える。
理解も、急に起きたように見える。
しかし実際は、
• 誘導があり
• パススピードがあり
• 布石が積み重なり
「起こるべくして起きている」。
見えない貢献を軽視するチームは、
同じ失敗を繰り返す。
見えない貢献を言語化できるチームは、
再現性を持って成果を出せる。
終わりに
成果を急がない行為こそが、
最も確実に成果に近づく道である。
だから私たちは、
ゴールだけでなく、
正解だけでなく、
その前にあった「何も起きていないように見える一手」
に、言葉を与えていきたい。
それが、
チームを育て、
学びを育て、
人を育てるということなのだと思う。

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