番号のある世界⑦

その日、私は「自分」に出会った。

駅のホーム。
人混みの中。

向こうから歩いてくる男と目が合った瞬間、
足が止まる。

似ている、ではない。

同じだった。

顔も、背丈も、歩き方も。

思わず振り返る。
だが彼も振り返っていた。

互いに、互いを見る。

気まずい沈黙。

「……失礼ですが」

同時に声が重なる。

彼も驚いた顔で笑う。

「やっぱり」

その言葉に、背筋が冷えた。

喫茶店。

向かい合って座る
もう一人の私。

「昨日、市役所行きましたよね?」

なぜ知っている。

「マイナンバーカード」

彼が続ける。

「更新」

私は言葉を失う。

彼はポケットからカードを出した。

私と同じ名前。

同じ番号。

同じ顔写真。

「不思議ですよね」

軽く言う。

「でも、こういうこと、最近増えてるらしいですよ」

増えてる?

「番号で管理されるって、こういうことなんです」

意味が分からない。

「人じゃなくて、番号が“本人”になる」

彼は静かに言った。

「だから、重なっても問題ない」

重なっても?

「だって――」

彼は微笑む。

「どちらが本物かなんて、
 システムは気にしませんから」

店を出ると、

彼の姿は消えていた。

いや、

消えたのは――

私の方だったのかもしれない。

改札を抜けようとして
エラー音が鳴る。

「この番号はすでに使用されています」

機械の無機質な声。

画面には、

見慣れた私の顔。

ただし、

名前の横には
こう表示されていた。

「無効」

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