番号のある世界④

気づかないうちに

男は、管理されている感覚がなかった。

監視されているとも思わない。
束縛されているとも感じない。

生活は便利で、快適で、問題もない。

「管理社会、ねえ」

ニュースの言葉を軽く笑った。

「別に困ってないだろ」

それが実感だった。

ある日、端末に通知が届いた。

《あなたの生活は非常に安定しています》

悪い気はしない。
むしろ褒められている気がした。

《行動変動:少》
《選択傾向:標準》
《逸脱指数:低》

「逸脱?」

少し引っかかったが、すぐに忘れた。

次の日。

《社会適合度:良好》

男は苦笑した。

「テストじゃあるまいし」

だが、それからだった。

なぜか最近、

強く怒ることが減った。
無茶な挑戦をしなくなった。
極端な意見を避けるようになった。

「歳のせいかな」

そう思った。

ふと、疑問が浮かぶ。

「……いや」

「本当にそうか?」

端末を開く。

設定画面の片隅。
今まで気にも留めなかった説明文。

《快適な社会環境維持のため
行動・選択傾向の最適化を行います》

男は目を細めた。

「最適化……?」

《個人に負担のない範囲で調整》

調整。

その言葉が妙に残った。

男は椅子にもたれ、天井を見た。

「俺は管理されていない」

そう思っていた。

だが、もしかすると。

「管理されていると感じないように
調整されているだけ?」

端末は静かだった。

ただ表示する。

《社会適合度:極めて良好》

男は小さく笑った。

安心とも、不安ともつかない笑いだった。

――もちろん、これも作り話。
ただ、管理というものは必ずしも
「縛られている感覚」と一緒に現れるとは限らない。

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