番号のある世界②

選択肢は調整されています

男は、自分が自由な人間だと思っていた。

朝は読むニュースを選び、
昼は食べたいものを決め、
夜は観たい番組を選ぶ。

誰にも命令されていない。
強制されてもいない。

「ちゃんと自分で選んでいる」

それがささやかな実感だった。

ある日、同僚に言われた。

「最近、ずいぶん無難になったな」

「そうか?」

「前はもっと変な挑戦してただろ」

男は笑った。

「落ち着いただけだよ」

帰宅後、端末を開く。

転職サイトには安定企業ばかり。
動画配信には好み通りの作品ばかり。
買い物画面には失敗しなさそうな商品ばかり。

「俺向きってことだろ」

違和感はあったが、不満ではなかった。

何気なく設定画面を開いた。

《表示最適化:ON》

説明文が目に入る。

《あなたに適した選択肢を優先表示します》

「優先、ね」

男は軽い気持ちでOFFにしようとした。

《この機能は推奨されています》

構わず切り替える。

《※一部の選択肢は表示されなくなります》

「……え?」

続けて表示された。

《快適な利用のため、選択肢は調整されています》

男の指が止まった。

《非効率・高負荷・低適合の選択肢を除外》

画面を閉じる。

心臓がわずかに速くなる。

翌朝。

いつものニュース。
いつもの提案。
いつもの選択。

何も変わらない。

いや、最初から変える必要がなかったのかもしれない。

男はふと思った。

「俺は選んでいるんじゃなくて……」

「選びやすくされているだけ?」

端末は答えない。

ただ静かに表示していた。

《最適な体験を提供中》

――もちろん、これも作り話。
ただ、「快適」と「自由」は
いつも同じ意味とは限らない。

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