たった0.3秒の「はい」が、一生残る

卒業式で、子どもに与えられる時間は約14秒。
そして、その中でも、たった0.3秒の時間があります。
名前を呼ばれて返す、「はい」。
この一瞬に、6年間が詰まっています。

卒業式の練習が始まるこの時期、子どもたちにこう伝えます。
「卒業式は、学校が行う最後の授業だ」と。正式には「卒業証書授与式」。けれど私は、そこに“授業”としての意味を見ています。授業には必ず「めあて」があります。

では、卒業式のめあては何か。
それは、教師が一方的に決めるものではなく、子どもたちと一緒に創り上げていくものです。子どもたちと考え、たどり着いためあてが、これです。

【卒業式のめあて】
ぼくたち・わたしたちは、5年生からあこがれられる6年生になります。そして、あこがれられる卒業式をつくります。
さらに、5年生といっしょに、先生、保護者、地域の人たちから「応援したい」と思ってもらえる卒業式をつくります。

では、「あこがれられる6年生」とは、どんな姿でしょうか。
姿勢が整っていること、返事がはっきりしていること、歌声がそろうこと。もちろん、それも大切です。けれど本当の意味での6年生らしさは、「自分の姿が、誰かの手本になると知って立つこと」という自覚にあります。

その姿を見て、5年生は「あんな6年生になりたい」と思う。保護者や地域の方は、「応援して送り出したい」と思う。卒業式とは、憧れを生み、応援される空間でもあるのです。

卒業式で、子ども一人に与えられる時間は約14秒。壇上に上がり、名前を呼ばれ、返事をし、証書を受け取り、降りるまで。たった14秒。けれど、その中には6年間のすべてが詰まっています。

そして、さらに短い時間があります。0.3秒。呼名に対する「はい」の時間です。担任が名前を呼ぶのは、一度きり。その瞬間には、「よくここまで育ったな」「がんばったな」という思いが込められています。その思いを受け取って返す「はい」。教師は、その声を何年経っても覚えています。声の大きさではなく、そこに込められた思いを覚えているのです。親にとっても、担任にとっても、この0.3秒は、一生残る時間です。

卒業式は、終わりではありません。「つなぐ式」です。5年生は、必ず“憧れの6年生”を探しています。憧れは、言葉ではなく、姿から生まれます。

だから子どもたちには、こう伝えます。「バトンを渡したい5年生を一人、見つけなさい」と。その子に向けて立つ。その子に向けて返事をする。その子に向けて歌う。それだけでいい。その瞬間、確かにバトンは渡っています。

これからの練習で大切にすることは三つ。姿勢、声、心。姿勢は立ち振る舞い、声は返事と歌、心は14秒に込める感謝です。揃うとは、ただ合わせることではありません。意志を一つにすることです。

卒業式は、憧れを生み、感謝を伝え、責任をつなぐ式です。子どもたちと創り上げためあてが、一人ひとりの姿となって現れるとき、その卒業式は、きっと誰かの心に残ります。

そして今年もまた、誰かの0.3秒に、心を動かされるのだと思います。

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