「一人も取り残さない」と言いながら、 私たちは何を教えてしまっているのか ――「今の意見どうですか?」が持つ、もう一つの意味――

1.「一人も取り残さない」は、もう合言葉になっている

学校現場で、「一人も取り残さない」という言葉を聞かない日はありません。
• 授業でも
• 会議でも
• 研修でも

誰もが、その理念には賛成します。
異論を唱える人はいないでしょう。

しかし、ここで一度、立ち止まって考えてみたいのです。

私たちは、本当に取り残していないだろうか。

2.口では「取り残さない」、でも授業で起きていること

たとえば、こんな授業の場面です。
• 意見がいくつか出る
• ハンドサイン(これ自体が30年前の産物ですが…)で賛否が可視化される
• 「なるほど」「そうだね」で次に進む

一見すると、誰も置いていないように見えます。

でも、ここで「今の意見どうですか?」が発されなかったらどうなるでしょう。
• 声を出せなかった子
• 同じだと思ったけれど言葉にできなかった子
• 人の意見を必死に聞いていた子

その子たちは、授業の外側に静かに残されます。

3.発言しなかった子は、「分かっていない子」なのか

違います。

多くの場合、その子たちは、
• ちゃんと聞いている
• 必死に考えている
• 自分なりに理解している

にもかかわらず、そこが評価も共有もされない。

教師が次に進んだ瞬間、子どもはこう学びます。

聞いていただけでは、学びにならない。
話せる人だけが、授業の中にいる。

これが、
ヒドゥンカリキュラムです。

4.「今の意見どうですか?」は、取り残さないための分岐点

この一言があるかないかで、教室は決定的に変わります。

「今の意見どうですか?」

と聞かれたとき、教師はこう伝えています。
• 話せなくてもいい
• 途中でもいい
• 人の意見を受けて考えたことに価値がある

つまり、

あなたは、もう学びの中にいる

と。

5.聞いていた子を、学びの中心に戻す

さらに教師は、こう続けます。
• 「今の意見、ちゃんと聞いていたから分かるんだよね」
• 「その違いに気づいたってことは、
 そういう目線で聞いてくれてたんだね」
• 「頷きながら聞けてたね」
• 「目がいい。大事なところを拾ってる」

ここで価値づけているのは、非認知能力、つまり、「見えない学力」です。

この瞬間、取り残されかけていた子が、学びの真ん中に戻ってきます。

6.違う意見が出たとき、教室に何が生まれるか

誰かが、違う意見を言ったとき。

教師が、こう言います。

「一つの意見、違う意見を、あなたが発表してくれたから、みんな分かるようになった」

ここで育っているのは、
• 思いやり
• 感謝
• 「聞いてよかった」という実感

心を育てる授業が、静かに始まります。

7.「何もしない」ことも、強いメッセージになる

大事なことなので、あえて厳しく書きます。

「今の意見どうですか?」と聞かないことは、中立ではありません。

それは、次のことを教えてしまっています。
• 早く話せる人が中心
• 声に出せない人は後回し
• 聞くだけでは価値がない

教師が意図していなくても、ヒドゥンカリキュラムとして、子どもに確実に伝わります。

8.だからこそ、「一言」が重い

「一人も取り残さない」と言うなら、まず授業の中で、取り残さない振る舞いを見せなければならない。

その最小単位が、

「今の意見どうですか?」

です。

大きな理念ではありません。
でも、これ以上に具体的な実践は、実はそう多くありません。

9.結びに――本当に伝えたいこと

「一人も取り残さない」は、スローガンではない。

毎時間、毎場面で、誰を学びの中に戻しているかの積み重ねである。

「今の意見どうですか?」は、授業を上手く進めるための言葉ではありません。

口先ではなく、態度で「あなたを取り残さない」と示す言葉です。

この一言がある教室では、
• 安心が生まれ
• 安全が守られ
• 安定した空間の中で

子どもたちは、学び方を学び、思いやりと感謝の心を育てていきます。

それこそが、「一人も取り残さない教育」の最も具体的なかたちなのです。

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