「分からないから教えて」が言える教室をつくるということ

声かけが“肥えかけ”になる学校文化へ

新年度が始まり、子どもたちの表情や関係にも少しずつ変化が見えてきました。

この時期に改めて大切にしたいのが、子どもたちが「分からないから教えて」と言える空気です。

この一言には、自分の弱さを認め、人とつながる力が詰まっています。

そしてこれは、まさに今の時代を生きる上で必要不可欠な“生きる力”そのものです。

岡田武史監督の「3つの問いかけ」

元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが、選手にかけていた言葉があります。

どうしたの?

どうしたいの?

私に手伝えることある?

この3つの問いかけは、人と人との関係を深めるうえでとても大事な視点を与えてくれます。

「どうしたの?」は、相手に寄り添う配慮のスタート。

「どうしたいの?」は、その人の願いや主体性を引き出す問い。

「手伝えることある?」は、信頼と協力を生む橋渡し。

そして、これらの問いに続いて出てくるもっとも大切な一言が、「分からないから教えて」なんです。

ヘルプスキルは“生きる力”

心理学ではこの「分からないから教えて」と助けを求める力を「ヘルプスキル」と呼びます。

自分から助けを求められることは、ただの甘えではなく、社会の中で他者と協働して生きていくためのれっきとした力です。

でも、実際にはこれが苦手な子も少なくありません。

まじめな子ほど「聞いたら恥ずかしい」「迷惑かも」と感じて、声を上げられないこともあります。

だからこそ、学校でその練習をする必要があります。

そして、それができるのが、毎日の授業です。

授業で、教師が橋渡し役になる

子どもたちが「分からないから教えて」と言いやすい空気をつくるには、教師がファシリテーターになることが大切です。

子どもが言い出せないとき、教師がその代わりになる。

つまり、教師が「分からないから教えて」と言う子どもの代表になるんです。

例えばこんな声かけがあります。

・今の話、どう思った?

・ちょっと違う見方もあるかもしれないね。誰かある?

・もやもやした人の声も聞いてみたいな

・それってこういうことかな? 他の人はどう?

・もし〇〇さんが「教えて」って聞いたら、どう返す?

こうして場を開くことで、子どもたちは少しずつその言葉を自分のものにしていきます。

「技能」だから、練習が必要

「分からないから教えて」は、勇気ではなく技能です。

誰でも言えるけれど、自然に言えるようになるには練習が必要です。

そして、私たちが毎日行っている授業は、その練習の絶好の場です。

1時間の授業の中で、3回「教えて」と言える機会をつくる。

それを毎日、毎時間繰り返すだけで、子どもたちは年間で何千回も「教えて」の練習をすることができます。

この練習の積み重ねこそが、「生きる力」としてのヘルプスキルを育てていくのです。

声かけが“肥えかけ”になる

声かけには力があります。

たった一言の声かけが、子どもの考えを深め、他者との関係を育てる栄養にもなる。

だからこそ、私は「声かけが肥えかけになる」と伝えたいのです。

授業中にかける「どう思った?」という一言。

友だちにかける「大丈夫?」という声。

「教えて」と言った子への「あ、いいよ!」という返事。

こうした言葉の一つひとつが、子どもの心と学びを育てる言葉になります。

さいごに

「分からないから教えて」と言える教室。

「どうしたの?」「どうしたいの?」と自然に声が飛び交う学校。

そんな日常をつくるのは、教師一人ひとりのまなざしと声かけです。

やさしさではなく、“生きる力”としてのサポート。

授業という日常の中に、そんな練習の場がたくさんあることに、私たち自身が気づき、意識していけたら。

今日の一時間が、子どもにとっての「教えて」と言える最初の一歩になりますように。

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