遠征は無形資産形成の場

この二日間の遠征では、子どもたちは5試合に挑み、3勝2敗という結果を残しました。

けれど、私たちが本当に見てほしいのは、勝ち負けの数字ではありません。

むしろ、「その2日間をどのように生き、どんな経験を積み重ねたのか」――そこにこそ、本当の価値があります。

それは、いわば無形資産と呼べるものです。

■「無形資産」と「有形資産」の違い

私たちは普段、目に見える成果――テストの点数、資格、収入などを重視しがちです。これらは「有形資産」と呼ばれます。

たとえば:

  • 塾へ通えば、テストの点が上がります(=有形資産)
  • 働けば、お金がもらえます(=有形資産)
  • 試合に勝てば、順位や記録が残ります(=有形資産)
  • 英検や漢検に合格すれば、履歴書に書けます(=有形資産)
  • 資格を取れば、評価されやすくなります(=有形資産)

これらはすべて、目に見え、数値化され、分かりやすい成果です。

けれども、一方で、数値では測れないけれど、生きる上で確かに力になるものもあります。それが「無形資産」です。

たとえば:

  • 自分の気持ちを言葉にできる力
  • 仲間と助け合い、支え合う姿勢
  • 挫折から立ち直る力
  • 自然や人への感受性や敬意
  • 出来事の意味に気づく感性

これらは、形にはなりません。通知表にも成績にも残りません。

けれども、人としての“根っこ”を支える、大切な力です。

今回の遠征でも、その無形資産は確かに育っていました。

1日目は、濃い霧でコートの半分も見えず、富士山の姿も見えませんでした。

しかし、2日目の朝、空が晴れて突然その姿が現れたとき、ある子がぽつりとつぶやきました。

「でっかいなあ。昨日は見えなかったのに」

その一言に、私は心を打たれました。

あの壮大な自然の前に立ち、子どもの中に芽生えた「気づき」や「感動」は、何ものにも代えがたい学びです。

これこそが、目に見えないけれど確かに育った“感性”という無形資産ではないでしょうか。

また、こんな姿もありました。

  • PKを外して泣いていた子に、仲間がそっと寄り添い、笑わせようとしていた
  • 誰に言われずとも、弁当や荷物を進んで取りに行く姿があった
  • 夜のミーティングで、仲間から「自分の強み」を教えてもらい、照れながらも嬉しそうにしていた
  • 大きなお風呂で、安心したような表情で心を解放する子どもたちの姿があった

これらはすべて、数字には現れない。けれど、確実に人を豊かにしていく無形資産の証です。

ここで、教育者・岸本裕史さんの言葉をご紹介します。

彼は、学力には2種類あるといいます。

一つは、点数や成績に現れる「見える学力」。

もう一つは、日々の生活や人との関わりの中で育まれる「見えない学力」。

片づけ、あいさつ、他人への思いやり、我慢する力、自分を整える力――これらはまさに、「生きる力」です。

遠征で育まれたのは、まさにこの「見えない学力」であり、「無形資産」なのです。

だからこそ、あらためてお伝えしたいことがあります。

お子さんが、そこに「いる」こと。試合に参加して「過ごしていた」こと。仲間と一緒に「感じていた」こと――それはゼロではなく、かけがえのない価値です。

数字に現れないからこそ、私たち大人がまなざしを向け、受け取っていく必要があります。

富士山の麓に立っているだけでも、確かに何かが育まれていたように。

子どもたちは、そこにいるだけで、静かに、深く、育っているのです。

どうか、ご家庭でもその無形資産に気づき、温かく見守っていただけたら嬉しく思います。

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