週末、女子サッカーの大会に引率した。
ピッチの隅で試合を見ながら、胸の中に重たい違和感が広がった。
どのチームも、指導者の声が響いている。
「戻れ!」「もっと速く!」「そこ違う!」
選手たちは、その声に反応して動いている。
試合が止まれば、すぐにコーチの前に集まる。
戦術ボードを見つめながら、真剣な表情でうなずく。
だが、子どもたちの口から言葉は出てこない。
――このチームの主語は、いったい誰なのか?
――“選手主体”とは、ただ聞き分けがいいことなのか?
どのチームも、指導者が中心だった。
ポジションを決めるのも、戦術を変えるのも、選手交代を判断するのもすべて指導者。
選手が自分の頭で考え、意見を交わす場面はほとんどなかった。
そこには、畑喜美夫さんが映像で紹介するビジャレアルの姿とは、あまりに違う現実があった。
その映像の中で印象的だったのは、「指導者が話していない時間」が長いことだった。
選手たちが自ら話し合い、ボードに線を引きながら作戦を決めていく。
「前半、サイドのスペース使えなかったね」「次は中を締めよう」
互いに意見を出し、修正し、また試す。
コーチはただ一言、問いを投げかけるだけ。
「君たちはどう思う?」
その一言が、選手たちを動かしていた。
――そうか。指導者は“動かす人”ではなく、“動きを生み出す人”なんだ。
このチームの主語は、確かに“子ども”だった。
佐伯さんやビジャレアルの指導者が語るように、
これから求められるのは「教えないスキル」だと思う。
教えすぎず、整えすぎず、子どもが考える余白を残す。
その余白が、子どもを育てる。
しかし、ふと考えた。
――これはサッカーの話にとどまらないのではないか?
教室を見渡す。
黒板の前に教師が立ち、整列した机の列。
先生が問い、数人の子どもが答える。
指導者が話し、選手が聞く。
構図は、ピッチの上とほとんど同じではないだろうか。
だからこそ、教室の構造そのものを変えてみたい。
「コの字型」や「グループアイランド型」の座席配置。
ただの配置転換ではない。
それは、“つながり”を生む構造改革だ。
人が安心し、心を開くには、まず「顔が見える関係」が必要だ。
向き合い、視線が合い、声が届く距離にいること。
この状態でこそ、心理的安全が生まれ、学びが深まる。
精神科医・樺沢紫苑さんが語る「幸せをつくる三大脳内物質」にも、それが表れている。
• セロトニン … 安定・リズム・生活習慣
• ドーパミン … 達成感・やる気・報酬
• オキシトシン … 信頼・つながり・共感
いまの教育や指導は、どうしても「ドーパミン型」になりがちだ。
「分かった!」「できた!」という達成感を求める。
でも、土台にオキシトシン(つながり・安心感)がなければ、
ドーパミンは一瞬で終わる。
達成の快楽を追い続けても、心が満たされない。
「きなり達成感を求めてやしないか?」
――その問いを、自分自身に投げかけてみたい。
本来、学びもスポーツも、人との関係の中で深まっていくものだ。
つながりがあるから挑戦でき、安心があるから失敗できる。
そのベースを整えることが、教室でもチームでも、最初に必要なことだ。
つまり、教えない勇気とは、待つ勇気であり、信じる勇気でもある。
そしてそれは、オキシトシンに満ちた“安心の場づくり”から始まる。
子どもたちが、自分の言葉で語り、仲間と考え、笑顔で挑戦する。
その光景を、サッカーのピッチでも、教室でも見たい。
――あなたのクラスは、どんな座席配置ですか?
――子どもたちは、安心して顔を上げていますか?
構造を変えることは、文化を変えること。
「つながり」から始まる学びこそ、未来をつくる第一歩だと思う。

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