指導者の指示ゼロで挑んだ一日—未来の日本代表に繋がる「非認知能力」の育成 はじめに:指導者の指示を超えて

【ジュニアユース マッチデー報告】
先日行われたジュニアユース マッチデーでは、通常の試合とは一線を画す前提で臨みました。それは、「自分たちで全てのコーディネートで臨む」というもの。
選手たちは、タイム管理から役割分担(ゲームリーダー、分析担当など)、そして試合中の戦術的な修正まで、すべてを自分たち自身で実行しました。この経験こそが、未来のトップアスリート、そして社会で活躍できる人材に不可欠な「非認知能力」を育む、極めて重要な実践となったのです。
実践の成果:自ら考え、改善する力
A地区戦(1-0勝利)では、前半に攻撃面や守備面で多くの問題が出ましたが、ハーフタイムのミーティングで選手たち自身が原因を分析し、後半には中盤の顔出しを増やしビルドアップを安定させるなど、見事な修正を見せました。
B地区戦(1-2敗戦)では、守備における組織的な連携や、球際の強さといった多くの好材料が見られた一方で、クロスの質やラストパスの精度、中盤の守備連動性の不足といった明確な問題も残りました。
しかし、この実践の真の価値は、勝敗や個々のプレーの良し悪しだけではありません。
【意義】
選手たちは、「問題解決型の自律した集団の形成プロセス」を経験しました。これは、指導者が「答え」を教えるのではなく、選手が「問い」を見つけ、「解決策」を探し、行動する「学びのサイクル」を自ら回したことを意味します。ピッチ外での積極的なコミュニケーションや、準備への責任感など、「プレーヤー」を超えた成長が見られました。
森保ジャパンが目指す「非認知能力」とは?
この「指導者の指示に頼らない」方法は、日本サッカー協会が目指す選手育成、特に森保一ジャパンの哲学と深く通じています。
指導者の指示で動く集団は、与えられたことを正確に実行する「認知能力」(技術や戦術)は高まります。しかし、指導者の声が届かない、予測不能な状況下で最善の判断を下す能力、すなわち「非認知能力」は育ちにくいのです。
このジュニアユースの取り組みは、指導者の指示を待つのではなく、状況を自ら読み解き、チームで協調し、失敗から学び、次に活かす「非認知能力」(リーダーシップ、問題発見・解決能力、協調性、レジリエンス)を徹底的に鍛えました。
このやり方を取り入れていない指導者へ
指示で動く集団は、監督の認知能力の範囲内でしか戦えません。一方、今回のジュニアユースの実践のように選手自身が全てを担う方式で育まれる「非認知能力」こそが、グローバルで変化の激しい現代サッカーにおいて、選手が「生き抜く力」であり、日本代表が世界を相手に戦う上で不可欠な要素です。つまり、非認知能力を育てることこそ、森保一監督が目指す「自立した個」の育成に通じているのです。
育てた能力の具体例
今回の「自分たちで全てのコーディネートで臨む」実践で特に育成された非認知能力は以下の通りです。
1. 問題発見・解決能力: 試合中にパフォーマンスの問題を自ら分析し、ハーフタイムで具体的な修正策(中盤の顔出しなど)を導き出した力。
2. リーダーシップ・協調性(マネジメント能力): 役割を分担し、責任を果たす遂行力。ピッチ内外で意見を出し合い、チームとして目標に向かう協調性。
3. 自己修正力・粘り強さ: 敗戦や失敗を他人のせいにせず、チームの改善点として受け止め(中盤の守備の弱さなど)、粘り強く次のプレーに活かそうとするレジリエンス(精神的回復力)。
環境整備の重要性:佐伯夕利子氏の提言
佐伯夕利子氏が著書『教えないスキル』で述べているように、この主体性を育む指導法を根付かせるには「学びの環境」が不可欠です。
「何を言っても、何をやっても、受け入れてもらえる」安心安全な環境(心理的安全性)があってこそ、選手は自ら発言し、チャレンジし、失敗から学ぶことができます。
長らく一斉授業形式に慣れてきた日本の文化では、学校教育、特に教室の環境も「一斉前向き座席配置」が主流です。しかし、この実践が目指す「自律」と「対話」を促すためには、教室の環境も、輪もしくはコの字形形式へと変えることが不可欠です。
全員の顔が見えるこの配置は、心理的な安全性を高め、発言しやすい空気を作り、対話と協働を自然に促します。指導者が「教えないスキル」を使っても、環境自体が「教える・教えられる」関係を固定化するものであっては、非認知能力の真の育成は浸透しません。環境は、学びを規定するメッセージなのです。
まとめ
選手たちは、多くの問題に直面しつつも、粘り強く戦い抜き、次の成長のための明確な課題(中盤の守備の組織化とビルドアップの安定)を得ることができました。この貴重な経験が、彼らを一回り大きく成長させる糧となります。
遠くまで送迎や応援、本当にありがとうございました。引き続き、選手たちの自律的な成長を見守ってまいります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました