――佐伯夕利子さんの「教室から変える」と日本サッカーの未来――
⭐︎はじめに ― 「教えない」から始まる進化
「教えないスキル」という言葉を初めて聞いたとき、多くの人は戸惑うでしょう。
「教えないでどうやって育てるのか?」と。
しかし、スペイン・ビジャレアルで育成改革を実践してきた
佐伯夕利子さんは、『教えないスキル』の中でこう語ります。
「教えることを手放したとき、相手の中にある力が動き出す」
この考え方は、いままさに森保一監督率いる日本代表――森保ジャパンが
ピッチ上で体現している哲学と深く響き合っています。
⭐︎「前向き一斉」から「円のチーム」へ
佐伯さんが指摘するのは、「教室」という構造の問題です。
日本の教室の多くは、いまもなお前向き一斉座席配置。
つまり、教師が前に立ち、子どもたちは一方向に並ぶという形。
これは「教える側」と「教えられる側」の非対称な関係を
物理的にも心理的にも固定化してしまう構造です。
佐伯さんが提案する「教室から変える」とは、
この構造そのものにメスを入れること。
つまり、学びのデフォルトを変えることなのです。
「教える人が中心に立つ教室から、
対話が中心にある教室へ。」
円になって語り合う。
問いを共有し、考えをつなぐ。
そこでは教師も学び手の一人として輪の中にいる。
この構造の変化こそ、主体的・対話的で深い学びの出発点です。
⭐︎森保ジャパンが体現した「構造の転換」
森保ジャパンは、まさにこの構造転換をピッチ上で実現しました。
従来の代表チームは、監督が戦術を決め、
選手がそれを遂行する「前向き一斉」の構造でした。
しかし森保監督は、選手たちに「決める自由」と「考える責任」を託しました。
試合中、監督がすべてを指示するのではなく、
選手同士がその場で修正し、共に解決を見つけ出す。
まさに「対話のチーム」「自律のチーム」。
それは、“監督が上に立つ”構造を“円のチーム”に変えるという、
佐伯さんの「教室から変える」思想と重なります。
このボトムアップ型の文化が、
ブラジルを破るという前人未到の成果を生み出しました。
「構造を変えたからこそ、思考が変わり、結果が変わった」のです。
⭐︎「教室」もまた、チームである
教育の現場も同じです。
もし教師が一方的に話し、子どもたちが受け取るだけなら、
学びは常に受動的になります。
でも、座席を変え、語りの場を変え、
問いを共有し合う構造をつくれば――
そこに生まれるのは、学び合うチームです。
佐伯さんが言う「教室から変える」は、
森保監督が実践している「ピッチから変える」と同じ構造改革。
どちらも、「指導のあり方」ではなく、
場のあり方から変えようとしているのです。
⭐︎おわりに ― 日本を変えるのは「構造」から
日本サッカーが変わり始めたように、
日本の教育もまた、構造を変えることで次の段階に進めます。
「教える」ことを手放し、
「考える場」「対話する場」「共に創る場」へと変えていく。
その一歩が、「教室から変える」という佐伯夕利子さんの提案であり、
それをピッチで実証しているのが、森保ジャパンなのです。
構造を変えることは、文化を変えること。
そして文化を変えることは、未来を変えること。
森保ジャパンがピッチで示したボトムアップの力を、
教室に――。
そこから、日本の“チーム力”は、さらに強く、美しく進化していく。

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