「私はできる!」を信じる力 ― 大人も子どもも育むセルフエスティーム

「やればできる」という言葉は、耳慣れたスローガンのように感じるかもしれません。けれど、実際に口にしてみると、不思議と心が前向きになる経験をしたことはないでしょうか。
人は自分を信じることで、挑戦する勇気を取り戻すことができます。そして、この「自分ならできる」という感覚こそが、心理学でいう 自己効力感(セルフエフィカシー)につながり、さらには自尊感情(セルフエスティーム)を育てていきます。

学校現場にいる私たちにとって、この「私はできる」という感覚をどう育んでいくかは、子どもの成長だけでなく、大人自身のあり方にも直結する大切なテーマです。

自信を失う子どもたちの姿

教室では、挑戦する前から「どうせ無理」と口にする子どもたちに出会います。まだ取り組んでもいないのに、失敗を先取りしてしまうのです。特に特別支援を必要とする子どもたちの中には、分からないことに出会うとすぐに机から離れたり、不貞腐れてしまう姿も見られます。

大切なのは、そこで「分からないから教えて」と言える力です。分からない自分を認め、助けを求めることは、実は大きな勇気を必要とします。しかし、自尊感情が低いと、「分からない=自分はダメだ」という発想になりやすく、学びから逃避する行動につながってしまうのです。

だからこそ私たち大人は、まず 「できないことがあってもいい」 という安心感を与え、できたことを一緒に喜ぶ関わりを大切にしたいのです。

小さな成功体験を重ねることの意味

自己効力感は、大きな成功から生まれるものではありません。むしろ、日々の小さな「できた!」の積み重ねこそが土台になります。
例えば、テストで100点を取ることだけが「できた」ではありません。昨日より1問多く解けた、昨日より少し早く計算できた――その一歩を認めることで、子どもは「やれば前に進める」という感覚を得ます。

特別支援の子どもたちにとっては、この小さな一歩の承認が特に重要です。失敗体験が多いほど、「自分には無理だ」という思い込みが強まります。しかし、小さな成功を一緒に喜んでくれる大人がそばにいれば、その子は再び挑戦しようという気持ちを取り戻します。

この「伴走者としての承認」が、教師や養護教諭、学校全体の大きな役割なのです。

教職員自身のセルフエスティーム

ここで忘れてはいけないのは、大人自身のセルフエスティームです。
教師は日々、授業、行事、生活指導と多くの仕事に追われ、「もっとできたのではないか」と反省を繰り返す立場にあります。もちろん振り返りは大切ですが、反省ばかりでは自分を責めてしまい、エネルギーが奪われていきます。

そこで必要なのが、子どもと同じように 「小さなできた」を自分に見つけること です。授業で一人の子が前に出て発表できた、行事で役割を果たせた、同僚と協力して課題を解決できた――それを「自分が関わったからできた」と素直に認めること。

さらに、疲れたときや失敗したときこそ、「私はまだやれる」「これから成長できる」と声に出してみること。これは単なる自己暗示ではなく、前向きな自己対話の習慣です。大人が自分を信じる姿を示すことは、そのまま子どもへの最高の教育になるのです。

「できる!」が学校文化になるために

「私はできる!」という言葉は、子どもだけに向けられたメッセージではありません。大人も含めた学校全体で共有されるとき、文化として根づいていきます。
• 子どもが小さな努力を見せたら「できたね」と一緒に喜ぶ
• 特別支援の子が「教えて」と言えたら「よく言えたね」と承認する
• 教職員同士でも「助かったよ」「よくやったね」と声を掛け合う

こうした日常のやり取りが積み重なることで、学校は「挑戦していい場所」になります。
失敗してもいい、声を上げてもいい、やり直せる――そんな安心感の中でこそ、子どもたちも大人も「私はできる」と信じられるようになります。

おわりに

「私はできる!やればできる!」という言葉は、子どもたちへの励ましであると同時に、私たち大人自身の生き方にもつながるメッセージです。

特別支援の子どもたちのように、失敗に敏感で自信をなくしやすい存在に寄り添うことは、すべての子どもに共通する学びの支えにもなります。そして同時に、私たち大人もまた、自分を認め、信じる力を磨き続ける必要があります。

子どもも大人も一緒に「できた!」を積み重ねていく――その先に、挑戦する勇気があふれる学校が広がっていくはずです。

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