今回の実践は、選手自身が考え、判断し、行動するという非認知能力の育成に焦点を当てたものであり、畑喜美夫氏の推奨するボトムアップ理論、森保一ジャパンが目指す自立した選手像に通じる、極めて意義深い取り組みであると評価できます。特に、「自分たちで全てのコーディネートで臨む」という前提が、この実践の根幹をなしています。
今日の「実践」の意義
森保監督の哲学は、戦術的な指示だけでなく、選手個々の判断力や主体性を重んじる点に特徴があり、これが非認知能力の育成に繋がっています。
今日の実践との比較・検討
今日の実践は、「自分たちで全てのコーディネートで臨む」ことで、まさにこの「自立・自律」を目指したものです。
指導者が指示する集団は、主体性が「指示待ち、受動的」であり、役割は「プレーに限定」され、能力は「認知能力(戦術理解、技術)中心」、学びは「『答え』を教わる」ことに偏りがちです。
それに対し、今日の実践は、主体性が「選手が主体、能動的」であり、役割は「マネジメント、分析、修正も含む」ものに広がり、能力は「非認知能力(リーダーシップ、課題解決力)を重視」、学びは「『問い』を見つけ、『解決策』を探す」プロセスを重視しています。
今日の報告書にある
• 「自分たちで全てのコーディネートで臨みました」
• 「前半の反省を活かしかなり良くなりました」
• 「ピッチ外でコミュニケーションもたくさんとる姿が見られました」
• 「試合に臨むまでの準備役割を果たそうとするする姿勢は評価できます」
といった記述は、選手が自ら状況を分析し(第一戦の前半と後半の比較)、課題を設定し、解決のために行動を起こすプロセスを内包しており、これは映像が目指した自立した集団の姿に他なりません。
今日の実践の意義
今日のU14の実践の最も大きな意義は、「課題解決型の自律した集団の形成プロセスを選手自身に経験させた」点にあります。
指導者が常に介入するのではなく、選手自らに「マネジメント」(役割分担、タイム管理)と「戦術的な課題の分析と修正」(第一戦の前半→後半の修正、第二戦後の課題抽出)を担わせることで、以下のような点で従来型指導との大きな違いを生み出しています。
指導者の指示により動く集団との大きな違い
従来、指導者の指示で動く集団は、指導者の認知能力の範囲内でしか成長できません。しかし、このやり方では、選手がプレーヤーとしてだけでなく、チームをマネジメントし、問題を解決する主体となります。
これにより、選手は「非認知能力」を決定的に育てます。これは、森保一ジャパンが目指す、予測不能な状況下でも自ら判断し、最善の選択をできる選手、すなわち「自律した個」の育成に通じています。
このやり方を取り入れていない人たちへ、指導者の指示による集団との明確な違いを伝えるならば、以下のようになります。
「指導者の指示で動く集団は、指示されたことを正確に実行する『認知能力』は高まりますが、指示がない状況や予期せぬ事態には対応できません。一方、この実践のように選手自身が全てを担う方式では、状況を自ら読み解き、チームで協調し、失敗から学び、次に活かす『非認知能力』が育ちます。この『非認知能力』こそが、グローバルで、かつ変化の激しい現代サッカーにおいて、指導者の声が届かないピッチ上で選手が『生き抜く力』であり、日本代表が世界を相手に戦う上で不可欠な要素、つまり森保一ジャパンが目指す部分に通じているのです。」
育てたであろう能力
今日の「自分たちで全てのコーディネートで臨む」実践を通して、選手が育てたであろう非認知能力を主に挙げます。
1. 課題発見・解決能力
• 能力: 試合中やハーフタイムで、自分たちのパフォーマンス(攻撃面の停滞、守備の連動性不足など)を自ら分析し、「中盤の顔出し」や「中盤の守備からの攻撃への意識」といった具体的な課題と解決策を導き出す力。
• 証拠: 第1試合目で「前半の反省を活かしかなり良くなりました」という報告。
2. リーダーシップ・協調性(マネジメント能力)
• 能力: 役割分担(全体マネジメント、ゲームリーダー、タイムキーパーなど)を通じて、チーム全体の流れを把握し、責任を果たす遂行力と、意見を出し合い、チームとして目標に向かうための協調性。
• 証拠: 「試合に臨むまでの準備役割を果たそうとするする姿勢」や「タイム管理は適切に行われ、ほぼ予定通りに解散」という報告。
3. 自己修正力・粘り強さ
• 能力: 失敗(1試合目前半の課題、2試合目の敗戦)を他人のせいにせず、自己の行動やチームの組織の改善点として受け止め(クロスの質の悪さ、中盤の守備の弱さなど)、粘り強く次のプレーや試合に活かそうとするレジリエンス(精神的回復力)。
• 証拠: 2試合目後半の「落ち着いてボールを回し、積極的に裏を狙い、中盤でしっかり起点を作れていました」という改善点。
4. コミュニケーション能力
• 能力: ピッチ内外で、戦術的な意図や、相手への要求、課題の共有などを、自発的に、かつ効果的に行う力。
• 証拠: 「ピッチ外でコミュニケーションもたくさんとる姿」の報告や、課題として挙げられた「声の少なさ」が、逆に声の重要性を選手自身が認識したことを示唆している点。
環境整備の重要性
佐伯夕利子氏が著書『教えないスキル』で述べているように、この種の主体性を育む指導法は、学びの環境と密接に関わっています。
「何を言っても、何をやっても、受け入れてもらえる」安心安全な環境(心理的安全性)があってこそ、選手は自ら発言し、チャレンジし、失敗から学ぶことができます。
100年にわたり一斉授業形式に慣れてきた日本の文化、特に学校教育においては、教室環境もまた一斉前向き座席配置が主流です。しかし、この実践が目指す「自律」と「対話」を促すためには、教室の環境もこの実践のように輪もしくはコの字形形式へと変えることが不可欠です。
この配置は、全員の顔が見えることで心理的な安全性を高め、発言しやすい空気を作り、対話と協働を自然に促すからです。指導者が「教えないスキル」を用いても、環境自体が「教える・教えられる」関係を固定化するものであれば、この画期的な実践がもたらすはずの非認知能力の真の育成は、学校教育全体にはなかなか浸透していかないでしょう。環境はメッセージであり、行動を規定するのです。

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