先日、とても示唆的な動画を目にしました。
テーブルの上に半分が白、半分が黒のボールが置かれています。一人の人は「白だ」と言い、もう一人は「黒だ」と言い張ります。どちらも自分の目で見たことを“正しい”と信じて疑わない。しかし席を入れ替えてみると、まったく逆の色が見え、自分の「正しさ」が半分に過ぎなかったことに気づくのです。
このエピソードは教育現場にそのまま重ねられるように感じました。特に「座席配置」の問題です。
100年間変わらない前向き一斉配置
学校では、黒板を正面にして全員が教師の方を向く「前向き一斉座席配置」が長く標準になってきました。100年近く、このスタイルがほとんど変わらず続いてきたといっても過言ではありません。教師の指示は通りやすく、子どもの姿勢も整いやすい。管理や効率の面で利点があることは確かです。
しかし、それだけを経験してきた教師や子どもにとっては、それが唯一の正しさに見えてしまいます。まさにボールを片面からしか見ていない状態です。
デフォルトバイアスの罠
心理学で「デフォルトバイアス」という言葉があります。「もともとそうだから」「変える必要を感じない」という思い込みのことです。座席配置はまさにその典型でしょう。
「前向きでなければ学びにならない」
「教師の話を聞くにはこの形が最適だ」
こうした思い込みは、他の可能性を試す機会を奪ってしまいます。
逆の発想を試す
ではどうすればよいのでしょうか。答えはシンプルです。逆を試してみることです。
今まで前向き配置が当たり前だったのなら、コの字型やグループ型を「スタンダード」にしてみるのです。子どもたちが互いの顔を見ながら言葉を交わす。そこからどんな学びが生まれるかを、実際に体験してみる。
「前向き」と「グループ」――どちらが主体的で、対話的で、深い学びにつながるのか。これは机上の議論ではなく、実際に試して比べてこそ答えが出ます。
学びの音を恐れない
もちろん、グループ型にすれば教室はにぎやかになります。教師にとっては管理が難しくなることもあるでしょう。けれども、そのざわめきは“学びの音”と捉えることができます。互いに意見を交わし合い、問いを投げ合い、考えを深め合う。そんな環境を子どもに保障することこそ、これからの教育に求められることです。
終わりに
ボールの例えが教えてくれるのは、正しさは一つではないということです。
前向き一斉座席配置にも意味はあります。しかし、それだけを正解だと信じてしまえば、学びの可能性は半分に縮んでしまいます。
だからこそ、教育現場では“逆”の座席配置をあえて試す勇気が必要です。
そして、その経験を通して初めて、「どちらがより主体的で、対話的で、深い学びを生むのか」を見極めることができるのです。
子どもたちに新しい景色を見せるために、教師自身が席を入れ替える。そんな小さな一歩から、大きな教育の変化が始まるのではないでしょうか。
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