1. 1学期末の反省で出た声
1学期末の全体反省で、こんな声がいくつも出ました。
「日案の反省を毎日書くのは大変です…。」
「週末にまとめて書いています。」
「提出のためだけに書いていて、正直、意味があるのかわかりません。」
その場にいた若手教員も、「実は僕もそう思っていました」と本音を語りました。
また、ベテラン教員からはこんな意見も出てきます。
「授業中に子どもの反応を見ながら修正していくことこそ大切。
だから日案なんて形だけ整えて提出すれば十分じゃないか?」
確かに、忙しい学校現場では「提出物」としての作業が増えれば増えるほど、負担感が増すのは当然です。
では、なぜ日案の反省を記入する必要があるのでしょうか。
2. 書かないと人は忘れる
この問題を考えるとき、脳科学と心理学に詳しい樺沢紫苑(かばさわしおん)さんの話がヒントになります。
樺沢さんは「人間は三つ以上のことを同時に覚えていられない」と指摘しています。
授業後すぐは子どもの反応や自分の工夫点をはっきり覚えていても、次の授業を重ねるうちに記憶はどんどん薄れていきます。
だから、その場でアウトプットする=書き残すことが不可欠なのです。
週末にまとめて振り返ろうとしても、「あれ、この授業どうだったっけ?」となり、細かい場面を忘れてしまいます。
その結果、「なんとなく良かった」「もっと工夫が必要」という曖昧な記録だけが残り、次の授業改善にはつながりません。
3. 振り返りの時間はすでにある
では、どのタイミングで書けばよいのでしょうか。
それは、子どもたちが授業の最後に振り返りを書く時間です。
多くの学級では、授業終了前の30秒から1分を使い、子どもたちが「今日の学び」や「気づき」をノートやカードに書いています。
その時間を、教師自身の振り返りにも活用します。
「子どもが書いている間に、自分も1行書く」。
たったこれだけで、日案記入の時間が“ゼロ”から生まれます。
この方法を試した教師たちは口をそろえてこう言います。
「あ、そうか!あの30秒に自分も書けばいいんだ!」
これまで“提出のためだけ”だった時間が、子どもと教師が同時に学びを振り返る生きた時間に変わるのです。
4. 書くのは30秒、内容は〇と△だけ
「でも、毎時間ちゃんと文章にするなんて無理…。」
そう思うかもしれません。
大切なのは、長い文章を書くことではありません。
授業後に〇と△をどちらか一つ書くだけでも十分です。もちろん両方あるといいかもしれませんが。
例:
• 〇:子ども同士の意見交流が活発だった
• △:発表が一部の子に偏った
このように簡単に残しておけば、金曜日の提出時にはすでに完成しており、「週末にまとめて書く負担」も消えます。
さらに、すべての授業でなくてもOKです。
特に印象に残った授業や、子どもの反応が気になった時間だけに絞っても構いません。
大切なのは、「次の授業をどうしたいか」をはっきりさせることなのです。
5. OODAループとPDCAサイクル
授業中は、子どもたちの表情や反応を観察しながら瞬時に判断し、行動を変えていく必要があります。
これはOODA(ウーダ)ループと呼ばれる考え方に基づいています。
OODAループ
• Observe(観察)
• Orient(方向付け)
• Decide(意思決定)
• Act(行動)
しかし、このOODAだけでは流れっぱなしで終わってしまいます。
だからこそ、授業後にPDCAサイクルを回すことが重要になります。
日案の反省は、PDCAの「Check(評価)」の部分です。
授業で起きたことを整理し、次の授業に向けて「Plan(計画)」につなげていく。
この繰り返しが、教師の授業力を確実に高めていきます。
6. プロとしての覚悟
教師の本分は授業です。
授業を振り返り、次につなげる行為はプロとしての覚悟の表れでもあります。
もし日案が「提出のためだけの書類」になってしまっているとしたら、それは授業が止まってしまっているサインかもしれません。
少し厳しい言い方をすれば、形式だけの振り返りでは、授業のプロとは言えないのです。
ただ、完璧を目指す必要はありません。
まずは一歩、30秒だけ、自分の授業を言葉にしてみることから始めましょう。
7. 未来を変える30秒
日案記入は「過去を責めるため」に書くのではありません。
未来をつくるために書くものです。
• 〇:良かったこと
• △:改善したいこと
• そして「次はこうしてみよう」という一言
この小さな記録が、次の授業を確実に進化させます。
子どもに振り返りをさせているときに一緒に記録してはどうでしょうか?
教師が成長すれば、子どもの学びも深まり、学校全体が前に進んでいきます。
まとめ
• 人は三つ以上のことを同時に覚えられない → その場で書く
• 子どもが振り返りを書く30秒を、教師も活用
• 記録は〇と△だけでもOK
• OODAで授業を回し、PDCAで成長を重ねる
• 日案は提出物ではなく、授業を磨くツール
授業後30秒の小さな習慣が、教師自身の成長を支え、子どもたちの未来を変えていきます。
「提出するために書く日案」から、「授業を進化させる日案」へ。
その第一歩を、今日の授業から始めてみませんか?
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