“たった一つのお願い”が教室を変える
「気づけよ」では、子どもは育たない
新学期の始まり、教師にとって最も大切なのが“授業開き”です。ただの導入ではなく、子どもたちの「学ぶ姿勢」や「関係性」を形づくる重要な時間。ところが、初任者の中には、授業開きを軽く捉えてしまう人も少なくありません。
実際にある学校で、ベテランの教務主任が行った6年生の図工の授業開きを見学した初任者は、こう気づきます。
「自己紹介から始めるだけの授業かと思っていたのに、後半になると子どもたちの空気が変わっていた。あれは“場づくり”の授業だったんですね。」
そう、授業開きは“空気”を仕込む場。どんな姿勢で学び合うか、どう対話し合うか、最初の授業でそれを“体験として”伝えることが大切なのです。
「聴く力」と「対話の型」は授業開きで育てられる
たとえば授業冒頭での自己紹介。これはただの教師の紹介ではありません。「どんな先生か」「何を大事にしているか」を聴きながら子どもたちにメモを取らせることで、“どう聴くか”という構えを自然に育てています。
さらに途中で「隣と確認してみようか」と声をかけるのも、対話のモデルを示す仕掛けの一つ。「いきなり話し合って」と言われるのが苦手な子も、こうした流れの中で“聴く→伝える”を安心して練習できるのです。
教室が変わる「たった一つのお願い」
授業の後半、主任が語ったのは“たった一つのお願い”。
「前に立つ友達を、よく見て、聴いてね。」
それだけ。けれど、このシンプルな言葉が、子どもたちの空気を大きく変えました。発表者の表情を見て、伝えたい気持ちを受け取る。“話す”より“聴く”ことが学びをつなげることに、子どもたちは自然と気づいていきます。
ここで大切なのは、「気づきなさい」と言葉で伝えるのではなく、気づけるような“空気”をつくること。
「気づく力」は、教え込むものではありません。日々のやり取りの中で、繰り返し経験して育つもの。だからこそ、授業開きの段階で“気づく体験”を用意する。それが、子どもたちにとって最初の「学び合い」の土台になります。
「ありがとう」の力で広がるモデル
授業中、ある子が前に立つ友達の表情をしっかり見ていたとき。教師はふと、その子に「ありがとう」と声をかけました。
注意ではなく、気づいたことを肯定する一言。これが、周りの子どもたちに「あ、こうすればいいんだ」と気づかせるきっかけになります。
行動を広げるのは、指導ではなく“モデル”。それも、子ども自身の中にあるモデルを教師が見つけて伝えることで、自然な学びの循環が生まれるのです。
図工だけじゃない。“お願い”はどの教科でも活きる
初任者が「これは図工だからできるのでは?」と疑問を持った場面でも、主任はこう答えます。
「国語の音読でも、算数の説明でも、社会の発表でも、全部“伝える場面”がある。」
そう、“前に立つ友達を見る・聴く”という行為は、すべての教科で活きる力。特別なスキルではなく、どんな授業でも応用できる「小さな仕掛け」なのです。
たとえば、「表情を見て、気づいて、行動する」こと。これを最初に体験しておけば、その後のすべての授業で自然に活かされていきます。
気づける教師が、子どもを育てる
主任は、授業後の振り返りで「一人、取り残してしまった」と語ります。
でも、それに気づけたことこそが収穫。「すべての子を見ようとしていたからこそ、取り残しに気づけた」。この視点は、どんな経験年数の教師にとっても大切なものです。
「気づけよ」と子どもに言う前に、まず教師が“気づける人”であること。そんな教師のまなざしが、1年を通して教室を耕し、子どもたちを育てていくのです。
明日からできる、小さな一歩
最後に、初任者がこんな言葉を残します。
「“ちょっと表情を見てみようか”くらいなら、私にもできそうです。」
そう、それで十分。大きな改革でなくてもいい。明日の授業でできる小さな工夫が、子どもたちとの関係を変えるきっかけになります。
まとめ:授業開きで育てたい6つの力
- 授業開きは「学ぶ構え」を育てる場
- 教師の自己紹介は“聴く力”と“対話の型”を育てる教材
- 「たった一つのお願い」が、表情を読む力を引き出す
- 「気づけよ」と言うだけでは育たない。“気づく場”をつくることが大事
- すべての教科に応用可能な、シンプルな仕掛け
- 気づける教師こそが、子どもを育てる存在
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