⭐︎指導現場で感じた、ある「欠落」
先日、女子サッカーU-12の練習・試合の現場を訪れ、私は強い危機感を覚えました。選手たちは真剣にトレーニングに励んでいますが、ある瞬間に気づいたのです。
それは、コーチの周りに集まり、一言一句聞き逃すまいとする熱心な姿勢の裏側で、「選手同士の対話」がほとんど皆無であるという事実です。まるで、コーチがすべてを教え、選手はそれを実行するだけの「コーチの駒」のように見えてしまいました。ここから変えていかなければ、日本の女子サッカーの未来に、大きな課題を残すことになります。
⭐︎危機感の正体:指示待ちが育む「非認知能力の欠如」
なぜ、この「対話の欠如」が問題なのでしょうか。
1. 自分で「考える力」が育たない
サッカーは、一瞬一瞬、状況が変化するスポーツです。コーチがベンチからすべての指示を出すことは不可能であり、ピッチ上の選手が瞬時に状況を判断し、最善の解決策を導き出す必要があります。しかし、普段からコーチの指示を待つ習慣がついてしまうと、試合中にアクシデントや予期せぬ局面が訪れたとき、「誰かに聞いてから行動する」という思考回路になってしまいます。これでは、「考える選手」は育ちません。
2. 「指示待ち選手」が示す具体的な行動の例
対話が欠如した環境で育つ選手には、共通した「指示待ち」の行動が見られます。例えば、プレーが止まる度に、必ずコーチ席を見て次に何をすべきか尋ねようとする。また、フリーの選手がいても、コーチが指示した選手にのみパスを出し、自分の判断よりも指示を優先してしまう。さらに、ミスが起こると、顔を見合わせて沈黙し、仲間同士で問題を解決しようとせず、コーチの介入を待つ。これらはすべて、点数化できない「非認知能力」の成長を妨げており、ただの「その場の自己満足」に過ぎない選手で終わってしまうでしょう。
⭐︎解決の糸口:映像が示す「対話」の価値とポジティブな変化
まさに、私が見たかった、そして指導現場が取り入れるべき姿が、この映像()にありました。一方的な指示ではなく、「問い」と「議論」が中心にある指導です。
指導者は、正解を教える人ではなく、「なぜ今、そのパスを出したの?」「どうすればあの状況を打開できたと思う?」と、選手に問いを投げかけ、考えさせるファシリテーター(進行役)に徹するべきです。
3. 「対話」を取り入れたチームに見られた変化
指導者が一歩引き、「対話」の場を意図的に設けることで、選手たちは劇的に変わります。以前、ミスで沈黙していた選手たちは、「ドンマイ!次はこう動くよ」と声を掛け合い、解決策を話し合えるように変わります。練習中にコーチの指示待ちで立ち止まっていたチームは、選手同士で円陣を組み、自分たちで次の戦術を議論し始めるのです。
この変化の核心は、「自分の頭で考え、行動する」という真の力を身につけることにあります。これは、サッカー選手としてだけでなく、将来、社会で活躍するための「自走力」となります。
⭐︎未来の代表にもつながる「選手主体の形」
この「対話」と「自立」を促す指導の形こそが、日本代表が目指すべき姿にもつながります。
例えば、男子の森保ジャパンが世界を驚かせたW杯の成功の裏側には、「選手主体のミーティング」や「戦術は選手が決める」といった、『選手に判断を委ねる』文化がありました。監督がすべてを指示するのではなく、選手同士がピッチ内外で対話を通じて状況を理解し、その場で最適解を導き出す。この能力こそが、強豪国相手にジャイアントキリングを起こす原動力となったのです。
U-12の現場で育むべき「非認知能力」と「考える力」は、将来、彼女たちが世界と戦う舞台に立ったとき、土壇場で活きる「判断の質とスピード」に直結します。
まとめ:指示を「教える」から、学びを「引き出す」指導へ
私たちが目指すべきは、U-12で勝つことではありません。
10年後、20年後に、自立して判断し、仲間と協調し、世界に通用する女性を育てることです。そのために、この年代の指導者には、大きな意識改革が求められています。
今日から、指導の現場から「選手同士の対話」を奪うことをやめましょう。
コーチは正解を与える人から、選手自身に正解を探させる人へ。この小さな一歩が、彼女たちの将来と、日本の女子サッカーの未来を大きく変えると信じています。

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